70年以上の歴史をもち、食味が高く、日持ちのよい農産物を生み出している微生物資材バクタモン®。『番外編』では、生産者とは別の立場から、農産物と関わりをもつ方々にお話を伺います。
その第1回を飾るのは、関西で高級食材や品質の高い農産物や惣菜を販売する「いかりスーパー」。ここで約30年農産物の仕入れを担当し『優菜農場®』という独自のブランドを確立した、取締役常務執行役員の小倉和士さんと、農産センター長の角裕史さんに、いかりスーパーが求める農産物と、その栽培についてお話いただきました。


納得できるものを自社で作る、高級スーパー
いかりスーパーは、兵庫県、大阪府、京都府に23店舗を展開する、関西屈指の高級スーパーです。
創業者で現会長の行光博志さんは、兄が始めた洋菓子卸の『いかり堂』を手伝いながら、当時伸び始めていたスーパーの将来性に着目。1961年、兵庫県尼崎市塚口に1号店を開きました。
貿易港の神戸に近い立地を生かし、珍しい輸入食材を仕入れたことと、元々洋菓子を製造していたので「よそへ頼むよりも、納得できるものを自分で作って販売しよう」と、お菓子やパンを自ら製造できる強みを生かし、昭和50年代初頭、芦屋店で当時は珍しかった高級惣菜のデリカデッセンを始めるなど、時代を先取りした販売戦略と本物志向で、関西を中心にお客様の心をとらえてきました。
現在は兵庫、大阪、京都を中心に23店舗。「納得できるものを、自らで作る」姿勢は、今も変わらず。自社のセントラルキッチンへ原料を仕入れ、お漬物も、お惣菜も、お菓子やパンも「一から十まで自社で」製造しています。
そんな中、小倉さんは1981年入社。30年ほど前から農産物の仕入れを担当してきました。当時は店で扱う青果物の大部分を、大阪市中央卸売市場の本場から仕入れていましたが、ある出来事をきっかけに、青果物に対する見方、考え方が、大きく変わっていきました。


ほうれん草を食べたおばあちゃんが…
それは90年代後半、年末のこと。お客様から電話がありました。
「お宅のほうれん草を、おひたしにして食べたら、うちのおばあちゃんが下痢をしてしまった。他に思い当たることがないので、農薬が残っていないか調べてほしい」
それは四国で栽培された冬のほうれん草でした。小倉さんは産地のJAへ問い合わせて、栽培管理表や残留農薬を確認したのですが、数値的に特に問題はなく、結局原因は特定できませんでした。
その翌年――。
また同じ時期に別のお客様から電話がありました。
「お宅のほうれん草を食べたら、うちの年寄りがおなかを下してしまった」
同じ時期、同じ産地のほうれん草でした。小倉さんは、産地に問い合せても原因は究明できないだろうと、独自に調査を進めるうちに、ほうれん草に含まれる「硝酸態窒素が悪さをするらしい」ことを突き止めます。
当時は現在のような硝酸イオンメーターがなかったので、小倉さんはドイツ製の試験紙を取り寄せ、問題のほうれん草の硝酸値を測りました。絞り汁で濡らした試験紙の色が薄ければ濃度が薄く、濃ければ濃いと判断されます。
測ってみると、試験紙が真っ黒になりました。ああ、これやな
1950年以降、アメリカではほうれん草のベビーフードを食べた赤ちゃんが、酸欠で亡くなる『ブルーベビー症候群』として問題になっていました。EUでは、土壌や水質汚染の原因として問題視していて、2011年、生鮮のほうれん草は、3500mgNO3-/kg、露地栽培の結球れたすは2000mgNO3-/kgなど、野菜に含まれる硝酸態窒素の基準が定められています。
2000年代に入り、日本でも「赤ちゃんが酸欠になる」「発がん性が疑われる」など危険視されていました。1996年、国内で高濃度の硝酸態窒素を含む井戸水が原因の新生児のメトヘモグロビン血症の事例が報告され、消費者の関心が高まった時期でもありましたが、原因は野菜ではなく、地下水そのものだったと結論が出ました。その後、日本の食品安全委員会は国会質問に対して、「野菜中の硝酸態窒素により健康に悪影響が起こる可能性は低い」と結論付けています(参議院事務局,2015)。
野菜に含まれる高濃度な硝酸態窒素は、健康被害を引き起こすのか…については、国や研究者によって見解が異なっていて、現時点では断定できないようです。それでもお客様の声をきっかけに、野菜の硝酸値を測り続けた小倉さんが、確信したことがありました。
硝酸値が低い野菜の方が、えぐ味が少なくて、おいしい。それは間違いない


優菜農場®のブランド化
野菜の糖度や硝酸値を測ることで、誰もが「おいしい」と感じる農産物を数値化する。こうした経験を踏まえて、1999年、いかりスーパーは『優菜農場®』という自社ブランドを定めました。それは、戦後日本の農業が進めてきた化学肥料や農薬を使用する慣行栽培、農薬や化学肥料を削減した特別栽培農産物や有機JAS認証栽培、肥料も農薬もまったく使用しない『自然農法』とも異なる、独自の考え方に基づいて誕生したものです。
それは、肥料は必要な分だけ、土壌生態系が円滑に循環することを目的として与える『低投与型の適正施肥』の有機農業。結果的に作物に残る硝酸態窒素は少なくなり、食味が高く、日持ちもよい。そんな農産物を選んで『優菜農場®』として店頭に並べるには、当初は硝酸値2000ppm以下としていましたが、2017年より1000ppm以下を基準として、他の野菜や作物と差別化して販売しています。

取材で訪れた9月1日、農産センター長の角裕史さんに、長野県産のレタスの硝酸値を測っていただきました。
レタスの絞り汁を、硝酸イオンメーターに垂らします。すると、1000、900、800……どんどん数値が下がり、『790』という値でストップしました。糖度は4.2をマーク。
これなら合格!苦味も少なくて、甘味もある。きっとお客様に喜んでいただけます
こうして全国の産地から選び抜かれた『優菜農場®』の野菜や果物には、こんな特徴があります。
・葉菜は、鮮やかな浅緑色。
・日持ちがよく、腐りにくい。
・数時間放置しても、ズルズルと腐敗せず、最後は萎縮する。
・調理すると、すぐに火が通り、味染みも早く、煮崩れしにくい。
・おいしい。食材本来の味がする。
仕入れた野菜の中で、植物体としても健康で、食味と歯応えがよく、しかも調理しやすい。そんな『優菜農場®』の作物は、どんな生産者が作っているのでしょう?


バクタモン®ユーザーも
 続々『優菜農場®』のブランド品に

和歌山県紀の川市で肥料店を営みながら、露地で野菜の栽培を手がけ、若手の生産者を育成している(株)吉岡農園の吉岡義雄さんは、バクタモン®と宇部マグを組み合わせた農法で『たまねぎ名人』として知られています。小倉さんはそんな吉岡さんの野菜を早くから導入し、店頭で『優菜農場®』として販売しています。
吉岡さんが作る冬のほうれん草は、甘味が強く、店頭でも人気の商品です。ところが、ある年、寒さが厳しいために生長せず、長さが10㎝ほどに。小さすぎて商品にならないので「もう、畑に鋤き込むわ」という吉岡さんに、「待った!」と声をかけた小倉さん。そのほうれん草は、硝酸値も低く、糖度は12度に達していたのです。
小さなほうれん草を、蓋つきのトレイに並べて、300円/200gで販売しました。すると、よく売れたのです
お客様が選んだのは、見た目よりも『味』。こんな風に、販売する側のアイデアしだいで売れてゆく。『優菜農場®』には、そんな強みがあります。

レタスを栽培しているのは、長野県塩尻市の生産者で、仲間と定期的に勉強会を開き、有効な資材の販売や栽培指導も行っている川上徳治さん。
バクタモン®を使い、農産物が必要以上に窒素成分を吸い上げるのを抑えて、品質のよいレタスを作り上げています。

兵庫県豊岡市でお米と黒大豆を栽培。先ごろ有機JASとGLOBAL G.A.P.認証の両方を取得した(株)村上ファームの村上彰さんもまた、長年バクタモン®を使っていて、特に大粒の黒豆は、いかりスーパーでも人気です。




低投与型の栽培と作物も
生産者がいかりスーパーへ『優菜農場®』の野菜を収める時、「いつまで・どれだけ」出すか、時期や量に制限はありません。おいしい時期に、できただけ収める。もし自然災害で収穫できなかったり、時期がズレてしまっても、生産者がその責任を問われることはなく、ペナルティもありません。仕入れ担当者が市場で他の産地の商品を吟味した上で補充して、『一般品』として店頭に並べます。
農産物の『はしり』の時期は、まだ味が乗らないことも多いのですが、いち早くそれを食べたいと求めるお客様もいます。
そんな時は、「まだ本来の味ではございませんが」と、上の写真のようにひと言添えて店頭に並べています。
また、予想以上に硝酸値が高い時は『優菜農場®』として販売することはできませんが、担当者は契約通りの価格で買い取り、一般品として販売しています。他のスーパーに比べて、仕入れ担当者の任期が長いのも、いかりスーパーの特徴で、1~2年ではなく、長期的なビジョンで産地を見守っています。そんな関係を大切にしたいと、「いかりスーパーのために頑張ろう」と奮起する生産者も少なくありません。

慣行栽培、特別栽培、有機栽培、自然農法……いろいろな栽培方法がありますが、今、いかりスーパーを訪れる人たちが本当に求めているのは、どんな野菜なのでしょう?
20年間取り組んできて『低投与型』の栽培でなければ、求めるものができないことがわかってきました。それから大事なのは品種。ほうれん草は重量の多い、立性の丸葉の品種が増えていますが、剣葉で赤軸の方がおいしい。また小松菜も軸の細い、昔ながらの品種の方がいいと思います

一般消費者の中には、有機栽培や自然農法を「目印」に、安全性やおいしさを求める人もいますが、実際に問われているのはどんな農法を採用したかではなく、できた野菜の中身。
有機質肥料を大量に使用した農場の野菜に、硝酸態窒素が大量に残り、それが作物の腐敗につながるケースもみられます。
必ずしも有機栽培がよいとはいいきれず、いかりスーパーではあくまでも、安全・安心プラス美味しさを尊重しています
と小倉さん。既存の栽培方法の違いだけで、健康でおいしい作物を見出すのは難しい。大切なのは栽培している土壌のバランスなのです。

生産者の判断に任せて、必要最低限の資材を使う。けれど、極力作物に硝酸イオンが移行しないように栽培する。そんな『低投与型』の栽培は、コスト削減にもつながります。また、硝酸イオンが多すぎると作物に害虫がつく傾向があるので、結果的に減農薬にもなります。
農家のみなさまには、『優菜農場®』ブランドの基準をクリアできる栽培に、果敢にチャレンジしていただきたいと思います
と角農産センター長。

従来の分類とは違う『低投与型』の栽培。これが広がっていけば、土壌に対する負荷が減り、作物自体が健康でおいしい野菜が広がっていくはず。
いかりスーパーが、生産者とともに20年間取り組んできた『優菜農場®』には、そんな思いが込められています。

いかりスーパー
https://www.ikarisuper.com/


2018年9月1日 取材・文/三好かやの

 




マルヤファーム様
「糖度世界一、ギネスが認めた包近のモモ」

(株)吉岡農園様
「土とともに40余年。栽培から販売まで、自ら手本を示す和歌山の肥料店」

宇城農園様
「『山椒ミルク』が大人気、山の中のジェラート店」


(株)村上ファーム様
「コウノトリ舞う里で生まれる、大粒の黒大豆」

廣井昌利様
「健康と取り戻すためにリンゴを栽培。人も地域も元気に。」


(有)ファームランド豊様
「イモ、豆、カボチャ…温暖な気候と微生物のチカラで、多品目の露地栽培を実現」

(有)須田フルーツ様
「キラリと輝く果実は土づくりから」


(有)おりた園様
「バクタモンで世界に通じる緑茶を育てる」


坂東明文様
「表層施肥栽培に出逢って・・・」