奈良県南西部の五條市は、昔から柿の産地として知られています。全国各地に柿の産地がありますが、その生産量は年間2万6千トンを超えていて、市町村単位では日本一。
中でも西吉野地区は、昔から柿の産地として有名なエリアです。堀内果実園は、1903(明治36)年、吉野の山を開墾して、農地を切り開いたのが始まり。6代目の堀内俊孝さん(47歳)は、ここで20年以上前から柿を栽培しています。
高齢化進む産地で、積極的に規模拡大
訪れた7月17日。日当たりのよい平らな場所に、幹の太い年季の入った柿の樹が並んでいました。収穫を迎える11月はまだ先ですが、堀内さんの畑では、既に小さな青い実が膨らみ始めていました。
「元々うちの畑は、山の向こう。傾斜のきつい中山間地が多い地域でした」
歴史ある柿の産地の五條市でも、高齢化が進み栽培を辞める人が増えていて、できればやる気のある若手に畑と柿の木を託したい。そんな持ち主が増えているそうです。その中で堀内さんは、ひと山越えて、条件のよい農地を買ったり借りるなどして、積極的に規模を拡大してきました。
「農地を1カ所購入して栽培を始めると、その周りの人も結構貸してくれるようになるし、造成にも協力的。だんだん作りやすい環境が整ってきました」
こうして堀内さんは、条件のよい場所で、柿の実だけでなく、柿の葉寿司用の葉っぱも出荷するようになり、現在栽培面積は10ha。スモモやブルーベリー、さらにリンゴも育て始めました。
20年ぶりにバクタモン®に再会
地元の柿農家に生まれた堀内さんは、元々好奇心旺盛で、学生時代の愛読誌は「東洋経済」と「AERA」。現代用語を解説した分厚い「イミダス」や「知恵蔵」を片っ端から読み、OSのWindows95が発売された時は、真っ先に購入する……当時の農村には珍しいタイプで、周囲から「変わり者」と呼ばれるほど。農業ジャンルに限らず、目新しいことはなんでも知りたい。そんな若者でした。
そんな根っから「知りたがり屋」な堀内青年は、20年前に地元のベテラン柿農家と、バクタモン®の勉強会に参加しました。「これをなんとか栽培に生かそう」と、バクタモン®を地元の肥料商に頼んで鶏糞に培養し、圃場に散布したこともありましたが、当時はまだ経験が浅かったのと、勉強会の内容は学術的な専門用語が多く、難しかったこともあり、なかなか使いこなせず、「結局ポットン便所のニオイ消し」で終わってしまったそうです。
「いま思うと、あの時はもったいないことしたなあと思います(苦笑)」
時は流れ、栽培経験を積んだ堀内さんが、再びバクタモン®の名を耳にしたのは、5年ほど前。大阪府岸和田市の松本隆弘さんが栽培する「包近(かねちか)のモモ」が、ギネスブックで「糖度世界一」に認定されたニュースが、関西の果樹農家の間を駆け巡りました。松本さんのモモ栽培にバクタモン®が貢献していることを知った堀内さんは、もう一度「柿に使ってみよう」と考えたのです。
柿の糖度が2~3度上がる
五條市で栽培される柿には、9~11月上旬に収穫を迎える渋柿の刀根柿や平核無(ひらたねなし)がありますが、地元で昔から栽培されていて評価が高いのは、11月以降に収穫される甘柿の富有柿(ふゆうがき)です。
柿は、なんといっても甘味が命。キウイや洋梨のように追熟がきかず、モモやリンゴと違い酸味とのバランスも問われないので、樹上でどこまで熟度出来るかが重要です。
「昔から『樹の上でお日様に向けて3回まわせ』といわれてきました。肝心なのは糖度。甘くなければ勝負になりません」
堀内さんは、大阪府堺市で農業資材を販売している森本商店の森本史郎さん(53歳)
に相談しました。森本さんを通じて松本さんと出会い、バクタモン®を活用した果樹栽培の基本を会得。ちょうど栽培面積を拡大し、日当たりのよい平場で栽培できるようになった時期だったので、新たに栽培を始めた場所でバクタモン®を使うことにしました。
「葉の表面が、ピカッと光っとる。ツヤとテリがあるでしょ」
堀内さんは、花芽分化が盛んな夏の間、バクタモン®の葉面散布を重点的に行っています。「ピカッと光る」葉の表面のツヤもその成果のひとつ。光合成を盛んに行っている証です。
「厚みがあって、しっかりしている。うちには柿の葉だけを出荷する畑もあって、葉っぱを手でよく触っているからわかります」
地面にも10aあたり40~50kgバクタモン®を散布。20年前は均等に散布するのが難しいと感じていたのですが、今回はバクタモン®と籾殻などをブレンドして、撒きやすい形で散布するようになりました。その結果、「この周辺は条件がいいので、結果が出やすい。元々糖度の高い場所で、バクタモン®を使い始めて4年目ですが、実際に糖度が2~3度上がっています」
取材に同行していた森本さんが、堀内さんの柿の樹皮を見ながら教えてくれました。
「ここの柿の樹には、古い樹皮が結構残っています。それは栄養生長より繁殖生長が勝っている印です」
地中の根が窒素分を過剰に吸収して枝や葉を伸ばすのを抑え、果実に栄養がいくようにバランスを保つ。
バクタモン®には、そんなはたらきもあるのです。
味のよい柿の栽培技術を探求すると同時に、堀内さんは新たに梅、スモモ、ブルーベリー等、他の果樹も栽培。あんぽ柿や柿の葉茶をはじめ、カラフルなドライフルーツ、コンフィチュール、シロップなどに加工して販売するようになりました。
手書き風のやさしいロゴがついたパッケージに包まれて、ネットや全国の百貨店などで販売されています。
フルーツパーラーが大人気
2017年6月、堀内さんはさらに、近鉄奈良駅近くの三条通りに、フルーツパーラーをオープンしました。その名も「堀内果実園」。自慢のフルーツをふんだんに使ったかき氷やスムージー、フルーツサンドが人気です。
お店の観光客が行き交う観光スポットにあり、若者や女性客が次々と訪れています。奥行の長い店内には、打ちっ放しのコンクリートを基調とした斬新で研ぎ澄まれた空間に、カラフルなフルーツとその商品が並んでいて、道行く誰もが「何だろう?」「入ってみたい」「食べたい」と思う店づくりになっています。
オリジナルのドリンクやデザート以外にもドライフルーツやジャム、柿の葉のお茶、シロップなど、フルーツを原料としたオリジナル商品がたくさん並んでいます。
柿農家の堀内さんは、柿だけにこだわらず、自園の作物を中心に他産地の桃やパイナップルやマンゴーなど、多彩なフルーツを使ったメニューや加工品を販売。自前の農産物だけを打ち出しがちな、これまでの農家カフェや6次化商品の殻を大きく打ち破りました。
「必要な部分はアウトソーシングしていますが、コンセプト作り、企画、メニュー開発、ポスター、チラシ……全部自社でやっています」
店舗の運営で大きな役割を果たしているのが、堀内さんの妻の奈穂子さん。フルーツアートの名人で、事業計画の段階から夫婦一緒に試作や試食を重ねてきました。
7月に訪れた時は、かき氷が人気。氷は奈良の氷室神社のお膝元、大和氷室から取り寄せていて、マンゴーの上にチアシードをかけたマンゴーのかき氷、果実の中にクリームを忍ばせた和歌山産のモモを丸ごと一個ドーンと乗せたモモのかき氷など、惜しげもなくフルーツを使った大胆な構成のかき氷が大人気。続々とオーダーが入っていました。
奈良に出したお店は、瞬く間に人気の的に。そして2019年3月14日、大阪駅の駅前にある「グランフロント大阪」に2号店を出すことになりました。しかも、南館の地下1階入口のすぐ近く。飲食のプロが手がける店をさし置いて、大阪で最も人通りの多い駅前ビルの一等地に、柿農家のフルーツパーラーがお店を構えることになったのです。
「なぜうちに、フロアの一番前でやらせてくれたのか?正直いって、見た目では他の店の方がずっと勝ってると思います。違いは素材。フルーツはもちろんですが、クリームや他の材料にもこだわっていますから」
フルーツはもちろん、素材の味と鮮度の良さが「堀内果実園」の強み。それは土作りの段階から「一歩先へ」と、こだわりを持って取り組み、素材の良さをとことん生かし、調理、加工、販売をしているから。生きた農産物に対するそんな姿勢が、味わう人に伝わって人気を呼んでいるのです。
「堀内果実園」の勢いは止まらず、今年2019年11月1日には、いよいよ東京へ。渋谷駅にオープンする渋谷スクランブルスクエア1階「エキュートエディション」に出店しました。
渋谷店では、加工品の販売のみとなりますが、出店に合わせて、新商品「くだものナッツおこし」が誕生。小麦のパフの中に、ドライの富有柿とくるみが入った「柿とくるみのおこし」と、グラノーラの中に甘酸っぱいスモモをおり混ぜた「すももとグラノーラのおこし」の2種類があります。
「どうせやるなら思い切り。中途半端にやらん方がええ。できれば10店は出したい。東京の次は海外へ。香港や上海でも展開していきたい」
オープン当日、購入した人に大粒の富有柿がプレゼントされました。
奈良の柿畑が原点。フルーツの魅力を知り尽くした生産者が、きっちりプロデュース。入口から出口まで、農家が責任と自信をもって送り届ける。「くだものが主役」のフルーツショップが、今着々と世界を目指しています。
●堀内果実園 https://www.horiuchi-fruit.shop/
2019年7月16日 取材・文/三好かやの
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