全国のブランド牛の生まれ故郷
福岡県の博多港からジェットフォイルで65分。
玄界灘に浮かぶ長崎県の壱岐島へやってきました。東西14㎞、南北17㎞。昔から肉牛の生産が盛んな島です。
島の人口26,500人に対し、肉用牛の飼育頭数は7,221頭。仔牛を産み育てる繁殖牛の飼育が中心で、繁殖牛5,867頭に、肥育牛は1,354頭。その販売額が、島の農業産出額全体の半分以上を占める、基幹産業となっています(2017年3月末)。
壱岐で生まれた仔牛は、肉質がよいと評判で、但馬牛や松坂牛など、全国のブランド牛の肥育農家が、こぞって買い付けに来るそうです。和牛は最終的に肥育された場所がブランド名になりますが、そのルーツを辿れば、じつは壱岐島生まれという銘柄牛も少なくありません。
この島にもまた「壱岐牛」というブランド牛がいます。壱岐島の肥育農家は、他所で産まれた仔牛を買い付けに行きません。それは壱岐で生まれ、壱岐で育った牛でなければ「壱岐牛」とは名乗れないから。壱岐牛もまた、島を代表する農産物となっています。
毎食欠かさず与えるBMエルド®
島の北部、芦部町にあるJA壱岐市の肥育センターを訪ねました。木製の柱に支えられ、清潔なコンクリートで築かれた、明るく風通しのよい牛舎には通路の両側に真っ黒な肉牛たちが整然と並んでいて、ちょうど朝の食事時間を迎えていました。
「先に粗飼料を与えて、続いて濃厚肥料を与えるところです」
そう教えてくれたのは、JA壱岐市肥育センター場長の山本一也さん。92年、ここに肥育センターができて以来、壱岐牛とともに歩んでこられました。
主食となるのは、トウモロコシや圧ぺん麦などの穀物をブレンドした濃厚飼料。山本さんは、飼料の入った大きなカートを押しながら、一頭一頭顔色や毛艶を確認して、飼料を与えていきます。
「牛の体重や食べっぷりを確認しながら与えていきます」
通路沿いの餌台に、手桶で黄色い濃厚飼料がザーッとまかれると、全頭一斉に頭を並べて食べ始めます。続いて、山本さんは小さなスプーンで数種類の粉末を「主食」である濃厚飼料の上に、3種類ふりかけていきました。
「これはカルシウムやビタミンなど、体調を整えるもの。牛たちにとってメインのごはんにかける『ふりかけ』のような存在です」
その「ふりかけ」のひとつ、レンガ色の細かい粉末を飼料の上に、スプーンですき切り一杯サーッとかけると……
牛たちは、飼料の上にふりかかったレンガ色の粉末を、舌を伸ばして真っ先に舐めるのです。
その様子は、うれしそうにも見えます。
「この粉末はBMエルド®。腸のはたらきを活発にして、体調を整えます。毎日与えることが大事なのです」
畜産用に開発されたバクタモン®の姉妹品「BMエルド®」、壱岐の牛たちにとって、欠かせぬ存在となっているようです。
壱岐牛とBMエルド®
「バクタモン®を、牛や鶏に食べさせると、生育がいい」
バクタモン®を愛用している農家の方から、そんな声が寄せられたのは1980年頃のことでした。
「バクタモン®は、野菜や果樹だけでなく、畜産農家の役立つかもしれない」
そう考えた岡部克己社長(当時)は、次女が通っていた幼稚園の友達の両親が、畜産系の獣医師であることを知り、家畜飼料としての試験を依頼します。
83年9月、兵庫県農業共済組合連合会・家畜診療所の獣医師中野恭治先生が、「肥育牛におけるBMエルドの効果について」という試験を行ったところ、好結果が得られました。
続いて84年1月「乳牛、繁殖和牛について」の試験を行ったところ、中野先生はBMエルド®のような生菌剤の効果として、「子牛の下痢の抑制」「腸管内の栄養改善や腸内有害菌の抑制」があることが判明。またこれを投与する場合は「常に一定以上あるようにしておきたいので、毎日一定の投与が必要」になると述べています。
さらに乳牛では、乳量の増加、乳房炎の減少効果があること、肉牛の場合はルーメン(第一胃)内の異常発酵による飼料消化率の低下を抑えること。有害菌を排除してストレスを低減し、牛の脂肪が粘りのある良質の牛脂に改善されることも明記されています。
当時、中野先生の同僚に、壱岐島出身の平山壽一郎獣医師がおられました。
兵庫県でBMエルド®の試験が行われていたのと同じ84年に、壱岐島へ帰郷して、現地の家畜診療所に勤務されます。
壱岐島で牛の診療を始めると、下痢が蔓延していて、薬剤治療で手を尽くしてもなかなか回復しません。そこで、元同僚の中野先生に相談したところ、「BMエルド®を牛に与えてみてはどうだろう?」との答え。平山先生がBMエルド®を水に溶かして飲ませると、1日目で回復の兆しがみられ、2日目には下痢の症状が治まりました。平山先生と関係者は、その効果に目を見張りました。
その後、診療が進められ、島の牛に蔓延していた下痢の症状は、半年あまりで制圧されました。それはBMエルド®の酵母菌などの作用で、腸内細菌叢を整える効果によって、下痢が止まったのです。それ以来、BMエルド®はずっと壱岐の牛たちに与えられています。
こうして1985(昭和60)年、岡部産業㈱は、兵庫県農林水産部畜産課に飼料製造業者届を提出。正式に受理されて「家畜飼料添加物 BMエルド®」が誕生しました。
1994年5月、公的な試験機関である㈲京都動物検査センターにおいてBMエルド®の安全性試験、97年5月に成長促進効果試験を行った結果、それまでの「飼料添加物」から晴れて「A飼料・混合飼料」に昇格しました。
「A飼料」は牛、豚、鶏など、全家畜に使える飼料、「混合飼料」は、公的機関で安全性を確認済みであることの証です。
その後、平山壽一郎先生は、壱岐家畜診療所の所長に就任され、2009年に退職されました。以下は2014年に当社にご寄稿いただいた所感からの抜粋です。
《平山先生所感より》
「BMエルド®」は、製品化の過程で牛が好んで舐め、ミネラルを含む赤土を加えている。
赤土の多い山野で放牧された牛は健康で発育も良い。このことからもBMエルド®は牛には理想的な混合飼料だといえる。
著者は2009(平成21)年(壱岐家畜)診療所を退職したが、BMエルド®はほかの混合飼料にない利用価値があり、往診時には常に携帯していた。
1.投与方法
・BMエルド®は嗜好性が良く、飼料に混ぜて与えることが出来る。
・食欲がない場合、また多量に与える場合は、経口投与する。
・病牛では病状により増量して与える。
2.主な利用
(ア)下痢治療に有効であるが、投与が飼料に添加できるため、特に集団下痢の場合は全体に与えることが出来、効果を得られる。
(イ)仔牛下痢の治療と、回復後の再発防止のため飼料に添加する。
(ウ)慢性鼓腸に有効であり、継続投与することで再発を防止できる。
(エ)老廃牛の肥育では、飼料が変わるため食滞・鼓腸が発生することが多い。これらを防止でき、肥育効果を期待できる。
(オ)肥育センター
JA壱岐市肥育センターでは、1933(平成5)年より利用を始めた。投与期間は飼料を増加できる導入5カ月より始め、出荷前1ヶ月まで与える。
2014(平成26)年12月現在、同センターでは、約550頭飼育しているが、当該牛全頭に日当5~10g投与している。当初から山本(一也)管理責任者の判断で投与を続けているが、喰い込みが良く、増体も良好である。
2014(平成26)年度、同センターの出荷成績は、上物率90%である。
こうして、壱岐の牛たちの健康管理と健全な育成に尽力された平山先生は、残念なことに2015年5月に逝去されました。それでも平山先生の指導の元に始まった、BMエルド®を「1日5~10g投与する」飼育法は、現在の壱岐島でも生きています。
画期的なキャトルセンター
今回訪問したJA壱岐市肥育センターには、オスの肥育牛300頭、メス300頭を育てていますが、その隣には仔牛を預かる「キャトルセンター」があります。島内の繁殖農家で産まれた3~4カ月の仔牛を預かり、8~10カ月ぐらいまで育ててセリに出します。
「仔牛を預かると、その分繁殖農家の牛舎のスペースが空きます。そこに別の親牛を入れて、さらに繁殖させることができるわけです」と山本さん。
ここで育った仔牛は評価が高く、受け入れ頭数は増えていて、高値で取引されているそうです。
さらに島内には、繁殖牛受託施設(キャトルブリーディングステーション:CBS)という施設があります。こちらは牛の母子寮。仔牛は哺育牛舎が預り、母牛は繁殖牛舎で人工受精し、妊娠が確認された後、農家へ返される。まるで肉牛の”母子寮”のよう。島全体で牛を育み、農家の負担を低減して生産効率を上げることで、結果的にグレードの高い牛が育つ画期的なシステムとして全国から注目されています。
アスパラガス栽培に貢献。SDGs未来都市へ
また、連日牛舎から排出される牛ふんは、発酵堆肥に生まれ変わり、島内の農産物の栽培に活用されています。中でも牛肉とお米と並んで島を代表する農産物に、30年ほど前に栽培が始まったアスパラガスがあります。株を伏せこむ前にハウスに大量の堆肥を投入。その後も毎年ハウス1棟に2tの堆肥を施して株を養生し、3~9月の間に収穫します。
2012年、JA壱岐市のアスパラ部会は、優れた生産者に与えられる日本農業大賞(集団組織の部)を受賞しました。反収は2,489㎏。長崎県全体の平均1,496㎏を遥かに超えて、「平均反収12年連続県下1位」に輝いています。
これは肉牛農家と連携した土作りの賜物。
発酵を促す微生物の力で土づくりに貢献する、BMエルド®の効果も活きています。
2018年壱岐市は、内閣府が選定する「SDGs未来都市」に選ばれました。
SDGsとは、「Sustainable Development GOALs(持続可能な開発目標)」の略で、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の現実のための17の国際目標。
2015年9月の国連サミットで、全会一致で採択されました。2030年までこれらの現実するために、世界中でさまざまな取り組みが始まっています。
日本では内閣府が2018年度に29、2019年に31の「SDGs未来都市」を選定しました。
その中で、離島として最初に選ばれたのが、壱岐市。島全体が「持続可能な未来」を目指す中、肉牛とアスパラガス等の栽培を連携させた循環型の農業は、これからますます重要な役割を果たしていきそうです。
35年前、故郷に帰った平山獣医師が、壱岐の牛のために使い続けたBMエルド®。牛の健康と堆肥づくりを通して、持続可能な未来を目指す島の農業を、これからもずっとバックアップし続けていきます。
2019年8月20日 取材・文/三好かやの
取材協力/スマートアグリ https://smartagri-jp.com/
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