米農家を原点に
(株)国際有機公社は、1989年に富山県南西部の南砺市で創業。米農家が原点で、ずっと日本の土と向き合い続けてきました。社長の吉田剛さんは、その二代目。「土壌医」の資格をもち、オリジナル資材「ポーマン」を中心に、土壌を活性化する資材の販売を通じて全国の生産者の相談に乗り、栽培と経営の向上に貢献しています。
同社のある南砺市は、北陸のなだらかな丘陵地に位置する稲作地帯です。有機栽培の機運が高まっていた80年代、生協や「大地を守る会」を中心に生産者と消費者が直接結びつく産直運動が起きて、安全な農産物を作り出す生産者を支えようという動きが、全国的に広がっていました。
先代社長で創業者の吉田稔さん(故人)も、そうした流れに共鳴し、富山で産直の道を模索していましたが、それをビジネスとして成立させるのは至難の技でした。
「まず、米を栽培するにも面積が少ない。宅配で野菜を売るには、年中多様な作物を揃えないといけない。決して大規模経営ではない中で、いかに生計を立てていくかが課題でした」(剛さん)
そこで、自ら栽培したお米だけでなく、近隣の農家からも買い集めて販売することに。また、消費者とやりとりが始まると、「農薬を減らして」「安全なものがほしい」などの要望がダイレクトに伝わってきます。一口に「無農薬で」と言われても、実際に栽培するのは容易ではありません。それでも可能な限り消費者の要望に応えようと、環境負荷の少ない栽培方法を模索する中で、吉田さんはイワシ由来の農業資材「ポーマン」に出会います。
「これを他の農家にも使ってもらおう」
こうして、農業資材の販売と普及、それを活用した栽培技術も伝える――そんな業務を手掛ける(株)国際有機公社を設立したのでした。
土壌に活力を与える「ポーマン」
吉田さんが見出した、土壌改良材「ポーマン」は、富山湾で獲れた生のイワシが主原料。これに「活性ケイ素」を加えて6カ月以上発酵熟成した「いわしアミノ酵素」です。肥料と農薬とも異なる「土壌改良材」に分類されますが、作物と土壌に活力を与え、土壌pHを中和し、活性酸素を除去する土壌活性浄化材として、多くの生産者に愛されています。
吉田さんは、このポーマンを軸に、連作障害や異常気象による高温や渇水に悩む生産者へ、土壌診断の結果をもとに土の力を活性化。アドバイスを続けてきました。
そして今から40年ほど前、ポーマンを普及させようと全国の農家を訪ねるうちに、稔さんはあることに気づきました。
「うちのポーマンと、バクタモン®は相性がいい」
とくにそれを感じるのは、稲作の現場です。イネは通常出穂の45日前から追肥が始まりますが、一般的に推奨されているやり方は、「V字栽培」といって初期と後期に窒素分を与えるのに対し、吉田さんは中期に与える「への字」栽培を推奨しています。初期と後期に追肥を行う「V字」に対し、中期に与える「への字」、施肥のタイミングが真逆になるには訳があります。
「初期はイネが自分の力で生長して、根が充分広がって体が大きくなった時点で肥料をやる。人間に例えると、まだ赤ちゃんでたくさん食べられない時期よりも、食べ盛りの中高生になってからたくさん与えて丈夫に育てる。そんな考え方です」(剛さん)
そんな大事な追肥の時期に肥料とバクタモン®を与えると、肥料「効きすぎる」のを抑える効果があるそうです。
「イネは日一日と生育が変わっていくので、ピンポイントの管理が必要です。肥料と一緒にバクタモン®を与えると、効きすぎないし、その後アミノ酸に変わったり。植物への刺激をやわらげる。食べ物に例えると生の素材ではなく、ちゃんと料理したものを与える。そんな効果があるように思います」
また剛さんは、畑作の場合も堆肥を入れる時や肥料分が多すぎて野菜が徒長気味になる時に、バクタモン®を入れるように指導しています。
「基本的に堆肥を入れる時は、バクタモン®を撒くようにと話しています」
こうしてバクタモン®は、同社の看板商品であるポーマンとともに広まっていきました。
変わる有機栽培をめぐる事情
有機栽培と産地直送の気運が広まる中で、自ら「有機」と名乗るさまざまな農産物が全国的に続出。とくに規定もないまま「有機物由来の肥料を使っているから」「有機質の堆肥を入れたから」有機農産物を表示する例も少なくありませんでした。そんな中で市場も混乱。統一した有機栽培の基準が必要になってきました。
そして2000年、農産物の有機JAS規格が制定されました。その基準になっているのは、JAS認証の基準に満たない化学合成農薬や化学肥料を3年以上使用しないこと。これを機に第三者機関から認証を受けた生産者だけが「有機JAS」マークを表示して、販売しています。
国の統一基準は定まったものの、広大な敷地で均一の作物を作る場合や、定期的な防除や細やかな施肥が不可欠な果樹栽培、施設園芸には適合しない部分も多く、この基準に則った条件で有機栽培ができる生産者はごくわずか。実際に農薬や化学肥料を使わずに栽培している人でも、定期的な認証審査への負担が重く、受けていないケースも少なくありません。
そんな理由から、有機JASの認証制度が始まって20年以上経過した今も、日本の耕地で有機栽培に取り組んでいる面積は、266,000ha。全体の0.6%に止まっています(2021年、農林水産省調べ)。国は「有機JASの農地は10年で6割拡大」と述べていますが、まだまだ一部にすぎず、微増中というのが現状です。
剛さんが、国際有機公社の一員に加わったのは1995年。当初は有機栽培に重きを置いて、栽培指導や資材の普及に臨んでいましたが、全国の農業現場を回って農家の経営全般を見るうちに「選択肢は決して有機だけではない」と考えるようになりました。
「有機栽培は、基本的に『旬』の時期に行うものです。仕事としてこの栽培法を選択する場合、風土(気候、土壌)に適した作物であること、輸送コストを考えても栽培地と消費地の距離が短くて、収穫量に適した市場規模で販売することが望ましいと考えます。
また、年中太陽が照っている地域かどうか、他の栽培法よりも手間暇がかかりますし、異常気象が当たり前の昨今、予防手段も限られているので、家庭菜園規模なら可能でも、専業農家が採算の採れる規模で実現可能かが問われます。また、いずこもパートやアルバイト人員の確保が難しいいま、人材を確保しやすい地域であることも必要になります。プロの農家として有機栽培を続けるには、風土に合わせて、経営(子孫、環境、収益)を持続させるスタイルを確立することが求められると思います」
今、注目されるバイオスティミュラント
農薬でも肥料でもないけれど、健全な作物を安定した収量を得るためには欠かせないので、長年農家に愛用されてきた農業資材……ポーマンやバクタモン®が属している……は、日本では長らく「土壌改良材」等に分類されていました。
それが今、「バイオスティミュラント」として注目されています。
バイオスティミュラント(Biostimulant)とは、日本語では「生物刺激剤」と訳されますが、近年ヨーロッパを中心に注目を集めている新しい農業資材でのカテゴリーで、植物や土壌によりよい生理状態をもたらすさまざまな物質や微生物を意味しています。
農薬が害虫や雑草などの「生物的ストレス」から作物を守る役目を果たすのに対し、バイオスティミュラントは高温、乾燥、冷害、塩害といった「非生物的ストレス」を緩和する効果があり、植物が本来持っている収量・品質ポテンシャルを引き出す新しい資材として、今、注目を集めているのです。
地球温暖化が進み、酷暑やゲリラ豪雨、不意の遅霜等、予測のつかない自然災害に見舞われることが多い昨今、バイオスティミュラント資材の存在感と必要性の期待が高まる中で、日本でも2018年2月「日本バイオスティミュラント協会」が設立されました。資材メーカーを中心にバイオスティミュラント資材の可能性を探求し、新たな基準や枠組を構築。吉田さんもまた、賛助会員として協会に加わっています。
「農薬や化学肥料のように、成分を分析して数値化できなかったり、場合によって効いたり効かなかったり。万能な資材といえない部分もあるので、統一基準を作るのは難しいですね。」
それでも、その効果は全国の愛用者が実証済み。元から植物本来の力を引き出す効果をもつポーマンやバクタモン®は、日本の風土に適したバイオスティミュラントのひとつとして、注目度が高まっていきそうです。
同社では、「農家経営状況の向上は土づくりから」がコンセプト。土壌診断を行い、その結果に基づいて必要な資材を提案する剛さんの指導は、多くの生産者から支持を得て、全国から相談が寄せられています。
「さくさく村」の商品たち
こうして「ポーマン」を軸とした農業資材の普及に努められてこられた剛さんは、2004年6月、新たな生産部門として「さくさく村」を設立しました。
「周囲は辞めていく人ばかり。お米を検査して、販売する機関も必要になったので、別会社として生産部門を立ち上げました」
水稲30ha、干し柿用の柿(平核無)1haを栽培。その加工も行っています。
中でも評価が高いのは、自社の農業資材を駆使して栽培している富山県産コシヒカリ。南砺市と石川県の県境にそびえる医王山にちなみ「医王の舞」と名付けて販売しています。
「米・食味分析鑑定コンクール」で、何度も入賞した実績も。食味の良さに定評があり、ネット販売でも評判がよく、根強い人気を誇っています。
さらに、お米を使った「素材を大切にしたおかき」も製造。しお、しょうゆ、にんにく黒胡椒など6種類の味があり、丁寧に育てられたお米の味わいが、じっくりと伝わると評判です。
さらに自慢の「ふくふく柿」。北陸地方で栽培されている渋柿の「平核無(ひらたねなし)」という品種を栽培。収穫後、8割は自然乾燥、残りの2割を練炭で乾燥させ、やわらかくなるように手で揉んで仕上げる、富山の昔ながらの製法で製造しています。
たしかな栽培方法で作られた作物から生まれるお米と干し柿は、今ではさくさく村の看板商品です。
国際有機から「アグリケア」へ
剛さんは、広い視野と長期的な展望で土づくりを考え、栽培的にも経営的にも持続可能な土づくりをアドバイスしていこうと、8年前に「土壌医」の資格を取得しました。そして新たなブランドとして「アグリケア」というコンセプトを打ち立てています。
「『アグリケア』は、土から始まる管理全般を意味していて、土壌診断をして、いつ・どれだけ・どんな資材を投入するのか相談に乗っていきます。土壌診断だけでもいいし、栽培管理の相談にも応じます。必ずもうちの資材を使わなくてもいい。農家さんが持っている肥料に、ポーマンやバクタモン®を加えていく方法もあります」
そんな吉田さんが目指すのは、「4K農業」。「きつい・汚い・危険」の3Kではなく、「家族経営」で「稼げる」「暮らせる」。そして「子どもが育つ」、そんな新しい未来像を描いています。
人間の力ではいかんともしがたい高温や、自然災害と向き合う時代、土壌の力を高めて、植物のポテンシャルを引き出す。土から栽培、経営全般を改善していく。そんな土壌医=吉田さんの活躍の場は、ますます広がっていきそうです。
●(株)国際有機公社 https://aguricare.jp/
●さくさく村 https://oisii.jp/
●日本バイオスティミュラント協議会 https://www.japanbsa.com/
2023年5月16日
取材・文/三好かやの
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