栄養価コンテスト3年連続最優秀賞を受賞!
3月中旬、徳島市で100種類の野菜とお米を有機栽培で育てる、坂東明文さん(63歳)の農園を訪ねました。作業場の壁には、数々の賞状が掲げられています。その内容は……
2017年 お米日本一コンテスト in しずおか コシヒカリ入賞
オーガニックエコフェスタ2018 夏ジャガイモ部門 最優秀賞
オーガニックエコフェスタ2018 夏大玉トマト部門 最優秀賞
オーガニックエコフェスタ2019 夏ジャガイモ部門 最優秀賞
オーガニックエコフェスタ2019 夏大玉トマト部門 最優秀賞
オーガニックエコフェスタ2020 夏大玉トマト部門 最優秀賞
と、輝かしい受賞歴がズラリ。坂東さんの野菜は、毎年徳島で開催されている(一社)日本有機農業普及協会が主催の「オーガニックエコフェスタ栄養価コンテスト」で、3年連続で最優秀賞に輝いています。
坂東さんは、2012年に徳島へ帰郷して、農業を始めたUターンファーマー。その3年後からキャベツやブロッコリー、ほうれん草など数多くの野菜が栄養価コンテストにノミネートするようになり、5年後には米が食味コンテストで初受賞しました。そして、ジャガイモと大玉トマトが最優秀賞を獲得したのは、農業を始めて6年後のことでした。
有機栽培は土づくりに時間がかかり、経験と勘が頼りといわれてきました。それでも、坂東さんが短期間で、ここまで栄養価の高い野菜を作れるようになったのは、なぜでしょう?
警備会社で活躍後、55歳で帰郷
坂東さんは、徳島市の農家に生まれました。地元の高校を卒業後、1974年に綜合警備保障(株)(ALSOK)へ入社。警備員を務めたこともあるそうです。
その後、セキュリティー機器のメンテナンスやシステム開発・企画等を担当。東京本社に22年間勤務。各省庁や金融機関、法人企業の警備システム作りを担当する重要なポストを任されていました。都会でビジネスマンとして活躍しながら「経営学を学びたい」と、産能大学へ社会人入学し、経営情報学を学んだ経験も。さらに登山や謡曲、茶道、絵画などを楽しむ、幅広い趣味と教養の持ち主でもあります。
ところが8年前、徳島に住む両親が要介護状態となり、定年を待たずに55歳で早期退職して帰郷することに。1.8haの農地を受け継いで、農業を始めることになりました。
「健康な野菜を作りたい」
そう願う坂東さんが目指したのは、従来の大量生産型の慣行農業ではなく、農薬や化学肥料に頼らない有機栽培でした。
とはいえ、有機栽培は環境負荷が少なく、食味もよく、味わう人たちの免疫力を高め、健康につながる一方、土づくりや栽培技術の取得に時間がかかり、短期間で経営を軌道に乗せるのは難しいといわれています。それでも挑戦する価値はあると、地元の農家や仲間から得た技術や知識をヒントに、土づくりを進めてきました。
古代から続く刈敷農法がヒント
「畑と人体は繋がっている。土と腸は一緒だと思います」
私たちの体の中には無数の腸内細菌がいて、植物を分解し、栄養吸収しています。またそれと同じように、土の中にもさまざまな菌がいて、有機質を分解し、作物が吸収しやすい形に変えてくれます。中には、病気の元となる悪質な菌もいますが、それに負けることなく健康な状態を保つには、土も腸も病原菌に打ち克つ「優良菌」が必要だと考えました。
これからの有機栽培は、農薬や化学肥料を使わないだけでなく「いい菌」が必要。坂東さんのヒントになったのは、徳島県西部の剣山系の山間部に古くから伝わる「古代刈敷農法」でした。
その農法が行われている集落は、山間部に位置していて、傾斜がきつく大型機械や施設が使えません。それでも150もの集落があり、そこに暮らす人たちは小さな畑を耕し、作物を作り続けています。
毎年秋に見られるのは「コエグロ」が立つ風景。人の背丈を超えるカヤを刈り取り、それを束にして、円錐状に積み上げたもの。剣山系の集落では、こうして乾燥させたカヤを畑に敷き詰め、その間に種子や苗を植える、昔ながらの「刈敷農法」が今なお連綿と続いています。そして、その貴重な農法を受け継ぐ「徳島県にし阿波地域」は、2018年3月9日、国連食糧農業機関が提唱する「世界農業遺産」に認定されました。
圃場に乾燥したカヤを敷き詰めると……
① 傾斜地にある土壌の流亡を防ぐ
② 地表の乾燥を防ぎ、雑草を抑制するマルチング効果がある
③ ケイ酸等を含んでいるので、分解されると良質な有機肥料になる
等の効果があります。
「山ガヤの中に、いい菌がいるんです」
カヤは「萱・茅」とも表記され、秋になると日本中の山や川原に生える、あのススキの仲間です。コメと同じイネ科に属していますが、その茎は稲藁よりもずっと硬く、強い繊維質を持っています。
「カヤに付着している常在菌は、それさえも分解して、作物に有効なアミノ酸やセルロースをいっぱい作ってくれる。自然界に存在する最も優れた菌だと思います」
そして、常在菌が分解したカヤの成分を作物が吸収すると、細胞壁のしっかりした、健康な野菜が育つのです。
徳島県は有機栽培の先進地
吉野川の下流、徳島市には、河川敷に生えるススキを圃場に漉き込み、農薬や化学肥料を使わずに野菜を栽培していた小林忠さん(故人)という方がいました。
小林さんは、徳島県庁の職員でしたが、水俣病やカネミ油症事件など、公害問題が頻発していた70年代、なんとかこれを解決したいと県庁を辞し、農業を始めます。
その農法は、吉野川の河川敷からカヤを刈り取り、畑にどんどん敷き詰めていくというもの。年に軽トラ100杯近くのカヤを運んで敷き、重ねていったそうです。すると、ススキに棲みついた菌が繊維を分解し、土へと還っていきました。
小林さんの家には、医者も手に負えないような病を抱えた人、アレルギーやアトピー性皮膚炎に悩む人が訪れました。小林さんは、食事法を指導しながら野菜を提供。その野菜を食べると、その症状が改善されていき、何通もお礼の手紙が届いていたそうです。
「徳島は土壌もいいし、水もいい。そして、里山から里海まで、一つの県ですべてが完結しているんです」
剣山系の刈敷農法と、小林さんの自然農法。徳島県には、自然環境を循環させながら野菜をつくり、さらに人の健康に貢献する。そんな先輩たちがいたのです。
とはいえ、坂東さんの畑周辺は平野部で、刈敷農法に適したカヤの群生地やカヤ場がありません。堆肥に適した植物と、その繊維質を分解する有効な菌はいないだろうか?と模索しながら、いくつかの菌を試すうちに「バクタモン®が、うちの畑に合っている」と判断したのでした。以来、バクタモン®を使って、完熟堆肥と表層発酵肥料を作っています。
そんな坂東さんの土づくりを見てみましょう。
廃菌床とバカスで作る発酵堆肥
坂東さんは、土づくりの決め手となる堆肥を、作業場に設けた発酵槽で製造しています。
材料は、米ぬか、バカスチップ、バクタモン®、エリンギ廃菌床、糖蜜。これらを発酵槽に重ねていきます。
堆肥の元となる有機質は、エリンギの廃菌床とバカスチップ。バカスはサトウキビの搾りかすで、パイナップルのカスも含まれています。繊維質が多く、袋を切るとほんのり甘い香りが漂うので、糖分も残っています。その上にバクタモン®を散布。全体を平らに均します。
さらに、その上から希釈した糖蜜を散布。これが微生物のエサになります。最後に廃菌床を「お布団のように」かけて終了。発酵を促します。
「あとは1週間に一度、切り返します。バクタモン®は好気性の菌群だから、空気を入れてやらないと窒息してしまいますからね」
発酵が進むと60~65℃になり、約3ヶ月で完熟に。サラサラの状態になります。
続いて、「表層発酵肥料」を作ります。
《表層発酵肥料の材料》
●エリンギ廃菌床 20㎏
●バカス 1袋
●米ぬか 2袋
●バクタモン® ボウル1杯
この比率で、均等に混ぜ合わせれば出来上がり。
表層発酵肥料は、畝の表面に散布。上から糖蜜をかけてさらにマルチで覆い、発酵を促します。
ミネラルは天然の素材で補給
こうして、自力で有機質堆肥を作るようになった坂東さんですが、それだけでは補えない成分がありました。
「有機質の堆肥だけで作物を栽培していると、どうしても微量要素が不足して、だんだん収量が落ちてしまいがち。特にマグネシウムが枯渇すると、光合成が進まなくなります」
それはまた、従来の有機栽培の弱点でもあります。まだ化学肥料がなかった時代、洪水や川が氾濫した時に、自然に補給されていました。現在は、単肥や合成肥料で補う人が多いのですが、化成肥料に頼りすぎると土が硬くなりがちです。微生物には、カルシウムやマグネシウムを生み出すことはできません。さりとて、人為的に堤防を決壊させるわけにもいきません。
「だから、ミネラル分を他から補わければ。化学合成されたものではなく、天然由来のものを使っています」
土づくりに不可欠なカルシウムとマグネシウムを補うために、よく使われるのはマグネシウムと石灰を結合させた「苦土石灰」ですが、これを投入し続けると土がカチカチになってしまうので、坂東さんは「マグピュアー55」と、鶏の卵を主成分とした「有機石灰」を使用しています。
更に、魚粉ベースの「オーガニック8・5・3」「加藤錦」、天然の岩石を粉砕した「綜合ミネラル宝素」、コウモリのフンが原料の「リンサングアノ」等を使用しています。いずれも化学合成によるものではなく、有機JAS認証を受けている資材です。
追肥いらずの表層発酵肥料
これらの資材の使い方を、実際に定植前のトマトハウスで実演していただきました。
まず、魚粉、卵殻カルシウム、マグネシウム、リンサングアノ、ミネラル等、粒状の資材を攪拌機で混ぜ、ハウス全体に散布。いずれも有機JAS認証を取得したもので、元肥の役目を果たします。続いて……
① 圃場に畝を立て、表層発酵肥料を畝の上に散布していきます。作物にピンポイントで効かせるため、通路や端には投入しません。
② さらに、希釈した糖蜜を散布します。これが微生物のエサになります。
③ マルチで被覆します。3週間後に定植用の穴を開けると、菌が増殖。表面に糸状菌が発生しているのがわかります。
表層発酵肥料は、時間の経過とともに発酵を進め、菌を繁殖させていきます。その菌が有機物を分解して養分を生成。優良菌のはたらきで畝が団粒化するため、根の育ちがよく、水分も順調に吸収。野菜が良く育ちます。さらに、
「化成肥料は使い切ったらおしまいですが、表層発酵肥料は時間が経つほど発酵と分解が進んで、養分ができる。追肥は定植以降ほとんど与えません」
表層発酵肥料の菌糸は、収穫時になっても伸び続け、思わぬ効果も生まれています。
「ジャガイモが養分を求めて、畝の上部に集まるのです。私は掘らずに拾うだけ。だから、とても収穫しやすいのです」
この方法は、玉ねぎ、ナス、キュウリ、ピーマン、スイカ、ブロッコリー等、マルチを使って栽培できる野菜なら、何でも使えるそうです。ハウスと露地を合わせて40aの圃場で、年間100種もの野菜を、ほぼ一人で栽培している坂東さん。追肥をしなくても、優良菌のはたらきで、確実に野菜が育つ。表層発酵肥料には、そんな効果があるのです。
硝酸態窒素が少なければ抗酸化力は高い
さて、坂東さんが作る野菜には、どんな特徴があるのでしょう?
冒頭で紹介した「オーガニックエコフェスタ」では、エントリーした作物を、すべて成分分析しています。それによると……
全国平均と数値を比べると、坂東さんのジャガイモと大玉トマトは、抗酸化力とビタミンC含有量が高く、格段に硝酸イオンが少ないことがわかります。
「硝酸態窒素が少ないと、抗酸化力が上がる。そんな相関関係があるようです」
特に2020年に最優秀賞に輝いた大玉トマトの「桃太郎」の食味について、審査員から「完熟した華やかなトマトの香りがあり、甘味とコク、酸味のバランスが非常に良く、ほんのりとしたトマト独特の青い風味もあり、爽やかで非常に美味しい」との評価を得ました。
坂東さんは、1年を通じて約100種類の野菜を栽培していますが、その多くは個人やレストランに直接販売しています。東京のレストランからの引き合いも多く、「食味が高いだけでなく、日持ちする」と、価格よりも味にこだわる料理人たちに喜ばれています。
ソウカ病対策に乳酸飲料で散布液?
就農して8年、ジャガイモの植え付けを前に、坂東さんは新しい農法に挑戦していました。机の上には、オリゴ糖、乳酸飲料「ラブレ」、そしてニンジンが並んでいました。いったい何に使うのでしょう?
「ジャガイモのソウカ病対策です」
ソウカ病はイモの表面に斑点ができる症状で、土壌のpHがアルカリ性に傾くと発生するといわれています。食味に問題はないのですが、見た目が悪くなってしまいます。
「原因の放線菌を抑えるには、酸性にしなければ。でも化学的資材は使いたくない」
そこで、身近な乳酸飲料と糖分、野菜を材料に、pHの改良液を作ることにしました。
甜菜由来のオリゴ糖500g、植物性の乳酸菌「ラブレ」800mlを15本、ニンジン2本のすりおろしが材料。これに水20ℓを加えて菌を増殖させ、約1週間で完成。使用時に全体で200ℓになるまで希釈すると、ほのかなピンク色の液体に。ちょうど10aの圃場に使用する分量になります。
ジャガイモを植え付ける前の、畝立てした圃場全体に米ぬかを撒き、乳酸菌を培養させたピンク色の液体を、動力噴霧器で全面に散布します。
「ずっと表層発酵肥料を与えていましたが、有機肥料を与え続けるとどうしても土壌がアルカリ性に傾いて、ソウカ病が出てしまいます。これを散布すればpH6.5から6前後に下げられるはず。今年は表層発酵肥料を行わず、ソウカ病対策優先でいきます」
身近な発酵資材を使ったユニークな病害対策、どんな成果が出るのでしょう?
飽くなき探求心で、有用な菌と資材を積極的に取り入れながら、土と人を健康にする新しい有機栽培に挑む坂東さん。自然の素材を優良菌の力で分解する有機栽培で、人々の健康に本当に役立てる野菜を。坂東さんの「オーガニックエコフェスタ」3年連続最優秀賞受賞の影には、バクタモン®のはたらきが生きています。
2020年3月19日 取材・文/三好かやの
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