香川で30年。
家族経営の小さな動物園
香川県の東端。隣の徳島県に隣接する東かがわ市の郊外、周囲を山に囲まれたのどかな場所に、小さな動物園があります。それは『しろとり動物園』。30年前、動物が大好きな松村順一さんと美智子さん夫妻が、手作りで始めた動物園で、徐々に動物と敷地を増やしていきました。
現在は、広さ1.2haの園内に、約75種の動物たちが暮らしています。
6年前から副園長としてここで活躍してるのは、松村夫妻の次男 一史さん(34歳)。
「子どもの頃からトラと一緒に寝ていたり、自分がチンパンジーの檻に入っていたり。暮しにずっと動物がいる中で育ちました。」
長女の由紀さん(43歳)は、動物たちのショーや子供たちとのふれあいを、長男の智樹さん(40歳)は動物園の経営を担当し、16名のスタッフとともに日々飼育に当たっています。ここは全国的にも珍しい、家族経営の見どころいっぱいの動物園です。
園内を歩いていると、お散歩中のニワトリやうさぎ、クジャクに出会うことも。入り口近くには猛禽類が囲いのない展示コーナーに並んでいて、間近で観察できます。また、小さなひよこやモルモット、トラやライオンの赤ちゃんの『抱っこ会』も開かれていて、子どもたちと動物の最初の出会いとふれあいを大切にしています。
さて、いつもは農業用の微生物資材として、広くご愛用いただいているバクタモン®。
その原理を応用して誕生した微生物応用・混合飼料BMエルド®が、動物園で使われることになったのは、なぜでしょう?
それは、長年この動物園で暮らしてきた『カバ』の環境改善がきっかけでした。
カバ池の浄化に微生物を
「こちらがカバゴン。オスのカバで、開園当時からの人気者。僕も子どもの頃からの付き合いで、今もデッキブラシで体を洗ってあげています」
香川県は、降水量が少なく、ため池は農業用水が優先。カバ池に使える水の量は限られています。カバは水生動物なので、池には糞尿も混じってしまうのですが、松村さんは、なんとか水を循環させて水をきれいにしてあげたいと考えていました。
「公立の動物園で使われている大型の循環システムには、億単位のお金がかかります。それを導入したら、うちの動物園は倒産してしまう……」
そこで考えたのがバイオマスの導入でした。カバ池の水をくみ上げて濾過し、異物を取り除きます。残った水をバイオ菌の入った濾過槽に入れ、曝気させながら微生物の力で残存している有機物を分解。再び水を循環させて池へ戻すのです。
それでもバイオマスで処理できるのは、1時間に200ℓが限界。まだまだ水は汚れるので、なんとか浄化能力を上げたい。さらにカバ池周辺に漂う糞尿の臭いを、なんとかしたいと考えていました。そんな時、松村さんはバクタモン®の姉妹品である『BMエルド®』の存在を知ったのです。
BMエルド®は、動物に有益な3種の糸状菌と1種の酵母菌を、赤土の乾燥粉砕物に混合し、発酵培養させた混合飼料で、天然のミネラルや微量要素も豊富に含まれています。これを家畜の飼料に混ぜて与えると、胃腸の動きが活発になり、動物たちの体調が整い、糞尿の臭いも軽減。たい肥の発酵促進にも役立っています。
カバ池にバイオマスを導入したことで、微生物のはたらきを実感した松村さん。早速、乾草やおからにBMエルド®を混ぜて、与えることにしました。すると、ずっと悩まされていた臭いが低減。処理能力も毎時600ℓにアップして、カバゴンの体調もよくなってきました。
BMエルド®は、他の動物たちにも、きっと役立つはず。今、しろとり動物園では、カバ池をきっかけに、さまざまな動物たちの生活環境に取り入れています。
モルモット
子どもたちとのふれあいでも大活躍。
モルモットは愛らしいペットとしてお馴染みの、テンジクネズミ科の動物です。ここでは月に一度、園舎の地面にBMエルド®を撒いています。すると糞尿の臭いが軽減されました。
「以前は皮膚病に罹ったり、肌の調子が悪かった子たちの毛艶が良くなりました。BMエルド®を撒いた後の3日間は、床を舐めて身体に取り入れようとしています」
モルモットは、元々土の上で暮らす動物ですが、動物園ではコンクリートの上で生活しています。そんな環境で快適に過ごすには、腸のはたらきを活発にして、臭いの低減にもつながる微生物のチカラは欠かせないようです。
ミーアキャット
アフリカ出身の哺乳類。群れをつくり、地面に穴を掘り、トンネルを作って暮らす習性があります。日々の「トンネル整備」が彼らの仕事。ある程度掘り進むと、それ以上、下へ行かないように飼育員がトンネルを壊します。すると、またせっせと整備する……そんな暮らしをしています。
雑食性の動物なので、ミミズやネズミを好んで食べます。夏場は虫を与えていますが、気温が下がってくると鶏肉や馬肉など、高カロリーのタンパク質が必要に。すると必然的に排泄物の臭いも強くなってくるのです。
そこで、松村さんはこうしたエサにBMエルド®を添加して与えるようになりました。ミーアキャットたちは、気持ち良さそうに地面に寝そべっていて、臭いも気になりません。
「本来、もっと臭いがきついはず。ここはBMエルド®の効果が一番出ていると思います」
ホワイトタイガー
しろとり動物園は、白いトラ=ホワイトタイガーがいて、その赤ちゃんと直接ふれあえる『抱っこ会』も人気の的です。
アメリカからやってきた2頭に始まり、園内で繁殖させ、最大12頭いたこともあるそうです。
この珍しい動物が、片田舎の小さな動物園に、たくさんいるのはなぜでしょう?
「動物園を始めた両親は、サーカスで猛獣トレーナー、九州のサファリパークで調教の指導員として働いていました。父は普通の人の100倍くらい動物が大好きで、中でも猛獣の飼育と繁殖が得意。自分で動物園を開きたいと、実家のある香川のこの場所に動物園を開いたのです」
トラを繁殖させる時、難しいのは「ペアリング」。相性のよさそうなオスとメスを選んで、発情期に一緒の部屋に入れます。時にはケンカになることもありますが、相性がよければ交尾して、多いときには4頭の子どもが産まれます。ペアリングを成功させるには、日頃の観察が欠かせません。飼育員はトラたちの仲人。それが上手だから毎年赤ちゃんが産まれているのですね。
飼育舎の掃除も大事な仕事ですが、このとき尿の臭いから動物たちの体調を読み取るのも、飼育員の役目です。
「トラは肉しか食べない動物なので、肝臓や腎臓への負担が大きく、機能が低下すると、どうしても尿の臭いがきつくなります。」
以前は整腸剤を与えていましたが、3年前から肉食獣にもBMエルド®を使い始めました。
「内臓が入った状態の鶏肉を与えるとき、そこに添加して与えています。すると尿の臭いが和らいで、便の状態もよくなりました」
尿の臭いは、猛獣たちの健康のバロメーター。BMエルド®は、その改善にも役立っているようです。
子ヤギ
園内を歩いていると、この春生まれた子ヤギに行き会いました。
ヤギや羊など、草食動物の赤ちゃんは、生後2か月の離乳期を過ぎると、草を食べ始めます。
親と一緒にいるとおっぱいから離乳食へスムーズに移行できるのですが、人工保育で育つ場合はエサの切り替えがうまくいかず、便がゆるくなったり、下痢をしたり。消化不良による胃腸のトラブルも少なくありません。
「そんな時は、BMエルド®を水に混ぜて、直径2cmぐらいの団子を作って、口の中に3個ぐらい入れて飲み込ませると、よく効きます」
ゾウ
動物園で最も大きなゾウもまた、BMエルド®の「お団子」を毎日食べています。ゾウの場合は、子ヤギよりずっと大きくて、ソフトボール大。水を混ぜて丸めたものを、1日1回、担当の飼育員が口の中に放り投げるようにして与えています。
体の大きなゾウは、食べる量も大量で1日80kgの草を食べ、15回も排泄するので糞尿処理も大変です。1日に動物園全体から排出される排泄物は、なんと300kg。その大部分を大型の草食動物由来のものが占めていて、肉食獣のものは1割にも満たないそうです。
たくさんの生き物が暮らす動物園。そこから排出される糞尿は、どうなっているのでしょう?
自園製のたい肥で、牧草も栽培
「こちらです」と案内されたのは、動物園の裏山。
そこに園から出る排泄物を集めた、たい肥舎があります。パワーショベルで切り返すと、ぼわっと湯気が立ち昇る。まるでどこかの牧場のたい肥舎のようですが、同じ生き物をたくさん飼育する畜産と、食べ物も生態も異なる動物を何十種類も飼育する動物園。そのたい肥には、どんな違いがあるのでしょう?
「ゾウのうんちは処理しやすいんですが、カバは未消化なものが多い。肉食動物のものには、なかなか分解しない骨が混ざっていることがあるので、大きなものは取り除いています」
まだ動物園が小さかった頃、たまった糞尿に落ち葉を混ぜて、自生している菌で発酵させて、たい肥を作っていました。
「空いているスペースにたい肥を持ち込んで、そこに牧草の種子を蒔いて生えてくると、動物たちを入れて食べさせる…そんなこともやっていましたね」
今では園の規模も大きくなり、動物の種類も頭数も増えました。現在も規模を拡大中なので、園内で堆肥を使い切るのは難しそうです。
「園の周囲を見ると、栽培できなくなって困っているおじいちゃん、おばあちゃんがいっぱいいて、空いている畑がたくさんあるじゃないですか。それなら貸していただこう」
こうして借りた耕作放棄地は全部で1.2ha。そこに自園製のたい肥を蒔いて、動物たちのエサになる牧草の栽培を始めました。
「今、畑は雑草だらけ。自力で栽培するとなると、なかなか難しいですね」と、松村さんは苦笑い。それでも果敢に栽培に挑戦しています。
今、全国に160あまりの動物園と水族館があり、日本は世界的に見ても動物園が大好きな国といわれています。生き物を飼育している以上、その糞尿処理は不可欠な仕事ですが、その大部分が廃棄や焼却処理されているのが現実なのだとか。大地に戻して循環させているケースは稀。とても素晴らしい取り組みです。
「動物たちの命の営みの一環としての糞尿。それは環境の中で巡り巡ってエサになる。彼らの故郷のサバンナはそうです。動物園の中で、それをどう回していくか。目に見えない小さな微生物にお手伝いしていただいています」
子どもたちが、最初に『命』ふれあう場として愛されてきた、しろとり動物園。
開園から30年が過ぎ、創業者の父・順一さんは、沖縄へ渡って新たに動物園を創設しようと準備中です。そして二代目の一史さんは今、小さな微生物から大きなカバ、ゾウたちまで、あらゆる生き物と共存しながら、循環型の新しい環境を学べる場所を目指しています。
●しろとり動物園
http://wwwe.pikara.ne.jp/shirotori-zoo/
2018年8月30日 取材・文/三好かやの
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