うまい米コンクールで金賞受賞
福岡市と北九州市の中間地点に位置する福岡県宮若市は、米作りがさかんなエリア。山本隆さん(67歳)は、ここでお米と菊、トルコギキョウ、そしてアスパラガスを栽培。そして7年前から宮若市の「酒造り研究会」の代表も務めています。そんな山本さんが、地元でお米を販売しているパッケージを見せてくれました。3㎏入りの袋には、にっこり笑った猫のイラストが描かれています。
「これは、追い出し猫のさくらちゃん。宮若には命がけで大鼠と戦ってお寺を守った追い出し猫の伝説と、それを祀った猫塚があって、市のマスコットキャラクターになっているんです」
災厄を追い払い、福を呼ぶ縁起のよい猫なのですね。宮若市では、毎年独自に「宮若うまい米コンクール」が開催されていて、山本さんは毎年食味値80以上の高得点をマーク。2021年のコンクールでは『にこまる』部門で金賞、『コシヒカリ』と『実りつくし』、そして酒米の『夢一献』でそれぞれ優秀賞を受賞しています。
「金賞受賞者のお米は、キロ600円。優秀賞受賞者のお米は500円で、この袋に入れて販売されます。他のお米よりあきらかに高いので、最初は敬遠されました。ところが、一度食べた人はもう一度食べたくなる。確実にリピーターが増えています」
コンクールの結果は、お米の販売価格にも反映されているのです。
そんな宮若市のお米は、福岡県だけでなく九州全域のお米が集まる「九州米食味コンクール」でも評価が高く、1位の熊本県多良木市に続き、団体部門で2位に。人口が集中する福岡や北九州に近いこともあり、都市住民の間でも「宮若のお米は美味しい」と、評判が高まっています。
水田の中干し前にバクタモン®を
山本さんの栽培は、菊花の出荷がメイン。農業を始めた47年前、稲作の面積は70aほどでした。ところが、稲作用の機械を揃えていた山本さんのところへ「もうできないから」と、作業を依頼する家が次々現れて、気がつけば現在9.8haに。花とアスパラガスと並行して作業しているので、山本さん自身「もう手いっぱい」状態の中、以下の品種を栽培しています。
にこまる…『きぬむすめ』×『北陸174号』を配合。『キヌヒカリ』に代わる品種として農研機構が育成。暑さに強く、食味も高い。2010年「米・食味分析鑑定コンクール」で初めて金賞を受賞。以来、九州や四国、西日本を中心に作付面積が広がっている。
元気つくし…高温でも良く実るお米を作るために福岡県が育成した『つくしろまん』×『つくし早生』。炊きたては卵かけご飯に、冷めてもお弁当に合うと評判。
実りつくし…福岡県が育成した『元気つくし』×『にこまる』。多収で、中食や外食向けのお米としてニーズが高まっている。
ミルキークイーン…『コシヒカリ』を元に育成された低アミロース米。
夢一献…『北陸160号』×『夢つくし』を交配して福岡県が育成。山本さんは30aほど栽培し、地元の酒造が醸造。オリジナルの日本酒『宮桜(みやおう)』も生まれている。
数ある品種の中で、食味が高いと評判なのが『にこまる』です。
「温暖化が進む、今の気候に適した品種なんですね。高温に強い。そして多収です。うちの場合、だいたい10aで9俵(540㎏)ぐらい。それ以上多くとったら、味が大雑把になるので、これくらいで収めた方がいい。酒米の『夢一献』は、5割まで磨いてもらっています。去年仕込んだ酒はものすごく良かった。ご飯として食べても美味いですよ」
温暖な九州の中でも、宮若市は一日の寒暖の差が大きく、夜間は米が休眠できるので、米作りに適しているといわれています。同じ市内でも標高は20~200mと高さが異なっていて、山本さんの田んぼがある金丸地区は比較的低い場所に位置しているので、高地に比べると条件的には不利なのですが、それでも食味を上げるために、工夫を凝らしています。
「夏の中干しの前に、10a当りバクタモン®を3㎏と、発根促進作用のあるマグホス(多木化学)7㎏を入れます。すると、食味が上がりましたね」
中干しは、稲がそれまでの栄養生長から、米を実らせる生殖生長へ切り替える時期。その前に散布することで、実を充実させる効果があるのです。
菊は花もちのよさ抜群!
そんな山本さんが、菊の栽培を始めたのは21歳の時。先に菊に取り組んでいた直方市の先輩農家へ通い続け、栽培方法を学びました。
「当時は別の仕事をしていたので、職場から夕方6時ぐらいに先輩の家に行って、そこで夕飯をいただいて、夜12時ぐらいに帰る。そんな毎日でした」
山本さんは、特段菊そのものが好きだったわけでなく、当時は菊が高価で取引されていたので、そこに魅力と可能性を感じて始めたのだそうです。
最初は先輩に習った通り、化学肥料を使って栽培していました。ところが、2作目の準備にとりかかった時、たまたま訪ねてきた肥料屋にすすめられ、動物性タンパク質がベースの肥料を使いはじめました。
「それ以来、土が変わりましたね。水をやってもよく吸うし、水もちもいい。それ以来45年以上、菊に化学肥料を使っていません」
そう話す山本さんは、大輪の白菊に、紫と黄色のアスターやスプレー菊をあしらった花束を作り、近隣のスーパーで販売。その花は、「花持ちがよい」と評判です。
「年末に買った菊が、1月末まで咲き続けて、びっくりした」というお客様も少なくないそうです。
その秘密は、土作り。地元の堆肥センターから供給される堆肥をベースに米ぬか、貝殻そしてバクタモン®を加えて混ぜたものを、オリジナル堆肥として米や菊、アスパラガスなど、すべての圃場へ投入しています。
頼もしい相談相手
山本さんにバクタモン®を紹介したのは、福岡市で農業資材の販売を手がける(株)サンセラプラントの小林克己さんでした。
今から30年ほど前、山本さんが菊の白さび病に悩んでいた時、小林さんが電熱硫黄くん煙器「スーパースモーキー」(大信油化工業(株))を販売し、効果が上がったことがきっかけで、栽培についていろいろ相談するようになりました。互いにやりとりする中で、堆肥と追肥にバクタモン®を使うことで、植物体そのものが健康になり、色鮮やかで、日持ちのする菊を咲かせることができるようになったのです。
お米の請負い面積が増える一方、10年ほど前から市場に出荷する花の価格は不安定。山本さんは農協出荷を行わず、個人として市場に出荷していますが、時としてものすごい安値がつくことがあります。
「今日市場に出してた菊は、1本6円。そんな日もあるとです」
そこで山本さんは、白菊と赤と黄色のスプレー菊を組み合わせた花束を自分で作り、自社で配送して近隣のスーパーで販売することに。年末には、特殊菊を自らアレンジメントして販売する等、より安定した価格で販売できるようにと工夫を凝らし、直売主体で販売し続けてきました。
また、宮若市で菊に代わる花材として、いち早くトルコギキョウの栽培を始めたのも山本さんでした。品種のバリエーションが幅広く、バラの代わりにブライダルに使えるような華やかな品種もあれば、厳かな仏事を飾るシンプルな花も。それでいて価格はリーズナブル。
その後、宮若市にはトルコギキョウ栽培の一大拠点が出来ました。本来の花の季節ではない時期の出荷を可能にする「冷蔵育苗」も手がけています。
山本さんの経営は、花が中心。自分と甥の伊藤寿祥さん、パートタイマー2人を加えた4人で作業しています。山本さん以外の3人がほとんど花にかかりきり。9.8haの米栽培は、山本さんがほぼ一人で担当している状態です。
その一方、花の価格は不安定で、安値が続いています。それでも将来、体が思うように動かなくなった時と見越して、あまり手をかけずに安定的に稼げる商材はないだろうか?そう考えたとき「第三の作物」として浮上したのが、アスパラガスでした。そして山本さんはいつも通り小林さんに相談を持ちかけます。
山本「アスパラやってみようと思うけど、どげん?」
小林「ええんちゃう?」
このひと声で5年前、アスパラガスの栽培が始まりました。
アスパラガスは「味がよい」と評判に
「アスパラガスは、手がかからんて聞いちょったけど、聞くのとやるのでは大違いやった」と話す山本さんは、ハウスにバクタモン®を使った堆肥を投入。そこへ自分で種子から育てたアスパラガスの株を植え込み、待つこと2年。ようやく収穫がはじまりました。
春芽が上がるのは2月の旧正月から。3月まで収穫は続きます。4月になると追肥。この時バクタモン®と有機質肥料、米ぬかを散布。バクタモン®には、肥料を分解しアスパラガスに効果的に吸収させる効果があるようです。
その間、春芽が伸びて立茎し養分を蓄えた地下茎から7月に再び夏芽が出たところを収穫しますが、どうも「手がかからん」わけではないようです。
毎日の水やり、株の様子を見て行う追肥、そして予想外だったのは収穫する間も圃場に草が繁茂すること。収穫時期と雑草の処理が重なり、思いのほか手のかかる作業だと感じるようになりました。
それでも思った以上に手のかかるアスパラガスを、山本さんは1束100gで近隣のスーパーや直売所で販売したところ、味わった人たちから「こんな美味しいの食べたことがない!」と、驚きの声が届いているそうです。
食味コンクールで金賞を受賞するお米と、年末から1月いっぱい日持ちする菊を育てる、バクタモン®を作った堆肥と追肥は、より旨味が求められるアスパラガスにもよい効果をもたらしています。
ハードでも、決して倒れぬスーパーマン
さて、そんな山本さんのある1日の様子を覗いてみましょう。
2:00 起床。菊とアスターを持って、小倉の市場へ
4:00 帰宅。スーパーで販売する菊のパック作り
6:30 前日収穫したアスパラガスを、1袋100gに調整する
8:00 近隣のスーパーや直売所へ、菊とアスパラガスを配達
9:00 朝食後、少し休憩
10:00 9.8haの田んぼの見回り。水の確認、草刈り、除草など
12:00 昼食と休憩
13:00 田んぼやハウスの見回り。菊やトルコギキョウの収穫
18:00 アスパラガスの収穫
19:00 夕食
夜が明ける前の深夜から夕方まで、花、米、アスパラガスと、気の抜けない作業が絶え間なく続きます。
「夜の1時過ぎにはもう起きていて、今日は菊の花束を何パック作ろうとか、一人で作戦会議。でもって、昨日は30本残ったなとか、一人反省会もしています」
見回りの必要な田んぼの枚数は、毎年のように増えていきますが、一枚毎にその広さも形も性質も違うので、それを覚えていくのも大変です。
「10aに3枚とか小さな田んぼも多いので、全部合わせるとものすごい枚数になります。それも真四角でなく、三角形や楕円形もある。機械を入れる時、どこから入ってどう動いて、最後どこから出ると動きに無駄がないか。そればかり考えています」
6月の初めに田植えがスタート。その間、同時併行で花の出荷も続きます。日中、田んぼや花のハウスに出ていても、18時になったらアスパラガスの圃場へ。草と格闘しながら収穫して冷蔵庫へ。夏の間は、そんな毎日の連続です。
そんな山本さんの様子をずっと見守ってきた小林さんは、「日中はいつも忙しくて、なかなか会えません。だから、私が山本さんを訪ねるのは、お昼の12時半と決めています。いつも座敷で横になってテレビを見ている。それでも倒れんからすごい!まるでスーパーマンのようです」
8月に入ると、お盆向けの花の出荷が始まります。
「いつものパートさんもフル稼働。そこにアルバイトの女の子も加わって、パック作業。それが地獄のようです。ああ、その前にトルコの苗を植えんといかん。菊が終わったら稲刈りが待っている……」
山本さんの頭の中でぐるぐるぐる。この夏のシミュレーションが始まっている模様。
菊、トルコギキョウ、米、アスパラガス……と、栽培方法が異なる品目が増えても、いずれも常に高品質。「食味が高い」「長持ちして綺麗」と喜ばれる農産物を送り出す山本さん。
その舞台裏では、いつもバクタモン®を使った土づくりが貢献しています。
2022年7月4日
取材・文/三好かやの
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