土にこだわりレタスを栽培
長野県塩尻市でレタスや白菜、ゴボウや長芋も栽培している須澤幸彦さん(50歳)の畑を訪ねました。8月下旬の圃場では、30℃を超える猛暑の中、レタスの苗を定植中です。
標高750m。冷涼な気候で知られる塩尻でも温暖化が進んでいて、夏場は猛暑日も少なくなく、乾燥や高温で植え付けた幼苗が枯れてしまわないように、1本1本、ていねいに植え付けられていました。夏場に出荷する「タフⅤ」(カネコ種苗)、バンパーヘッドグラス(ツルタのタネ)などを栽培しています。
須澤さんの家では、祖父の代からレタスを栽培してきましたが、幸彦さんの父の房光さんは、生産者仲間の川上徳治さん(故人)、酒井茂典さん(「バクタモン®な人々№36」に登場)とともに化学肥料を最小限に抑え、微生物資材を取り入れた土づくりに取り組み続け、平成17(2005)年(株)あおぞらを設立。いち早くバクタモン®や土壌活性資材も活用して、土を大切にした栽培を続けてきました。そこから生まれたレタス、キャベツは、硝酸態窒素の含有量が低く、棚持ちがよく、食味がよいと高い評判に。独自に販売ルートを開拓して、関西の高級スーパーで販売されています。
レタス農家としては三代目となる幸彦さんは、20年ほど前から栽培に加わるようになりました。
「元々うちの父は『化学肥料の使いすぎはよくない』という方針でしたので、川上さんを中心に現在の仲間と意気投合。会社を立ち上げて、有効な資材を探しながら、ともに土づくりを学んで、当初からバクタモン®などの微生物を活用していました」
会社の設立当初から社長として仲間をリードしてきた川上さんは、令和3(2021)年に他界されました。その後(株)あおぞらの社長は、幸彦さんの父の房光さん、そして酒井さんへと引き継がれています。一方、幸彦さんも令和4(2022)年から農園の代表に。現在はご両親と奥様の4人の家族経営で、レタスとキャベツを4haに加え、長芋を15a、ゴボウを10a栽培しています。
多様な農業資材+緑肥も活用
須澤さんの倉庫には、バクタモン®に加え、土壌活性資材、粘土鉱物資材、有機リン酸肥料など、さまざまな資材の袋が並んでいて、現在も土づくりを探究中。幸彦さんが研究熱心な生産者であることを物語っています。
さらにレタス畑の隣には、青々としたグリーンの葉が生い茂り、風にそよいでいました。
「これはソルゴー。このまま刈り取って枯らせてから、緑肥として畑に鋤き込みます」
ソルゴーは、イネ科の1年草で、モロコシ(高黍)の一種。休閑地に育てた茎葉をトラクタで鋤き込むと、土中で分解され有機物を供給する「緑肥」として活用できます。つまり今年育てたソルゴーは、翌年育てる作物の肥料分。レタスの栽培と同時に、土づくりも着々と進行しているのです。
冷涼な気候を生かした高原野菜の産地として知られる塩尻でも温暖化が進み、須澤さんはその影響を年々リアルに感じるようになりました。適度な雨が降らず、久しぶりに降ったと思えばゲリラ的な集中豪雨で、短時間に大量の雨が一気に降ってピタリと止んでしまう。そんな天気が続いています。
養分補給を化学肥料に頼る土は、細かな粒子の集合体である「単粒構造」。硬くしまって隙間がなく、雨が降っても土中に浸透せずに、表面をダーッと流れ去ってしまいます。これでは水分が足りず、作物も順調に育たないばかりか、せっかく投じた肥料に植物の根に届かず、吸い上げることもできません。それに対し、粒子が団子状になっていて、隙間がある土壌を「団粒構造」といいます。
「団粒構造の土は、通気、排水、保水、保肥性の向上につながります。そんな土を作りたい」
土の中には適度な隙間があれば、そこへ根が深く入り込み、肥料分を吸い上げます。粘土鉱物等の資材を投じてCEC値を高めれば保肥力も上がるので、投入する肥料の量も減らせます。気象条件が年々厳しさを増す中で、須澤さんは以前にも増して団粒構造を持つ土づくりの大切さを実感するようになりました。
じっくりゆっくり吸い上げる緩効肥料の効果も
さて、須澤さんは主力のレタスに加え、ゴボウと長芋を栽培しています。いずれも土中に長く根を伸ばす根菜なので、ムラがなくやわらかで、適度な水分と空気を含んだ作土が欠かせません。作土の深さは、なんと120㎝!
播種前にトレンチャーと呼ばれる専用機械で土を掘り、シーダーテープに貼り付けられた「柳川理想」という品種の種子を植えていきます。ゴボウの産地では、栽培に適したやわらかな土を作るために、大量に動物性の堆肥を投入するケースも多く見受けられますが、須澤さんの場合、堆肥は使用していません。
では、須澤さんは、どうやって団粒構造を保っているのでしょう?
「微生物と粘土鉱物、そして今年から腐食酸の入った資材も試していますが、土づくりはまだまだ勉強中。なかなかうまくいきません」
8月にそう話されていた須澤さんから、11月に入って土中から掘り上げたばかりのゴボウの写真が届きました。長さは60~100㎝で、直径3㎝前後の見事なゴボウです。
5月初旬、トレンチャーで深く溝を掘り、土壌消毒を施した後に肥料とバクタモン®や、他の土壌活性資材を投入します。そしてシーダーテープを使って播種を行い、本葉が展開した頃に間引いて株間を広げていきます。
ゴボウは、播種から収穫までの期間が半年に及ぶので、元肥だけでは足りず、通常は栽培途中に追肥を行いますが、須澤さんは基本的に元肥のみで育てています。
「土中の有機質を微生物がゆっくりゆっくり分解して、それをゴボウが吸ってじわじわと大きくなる。ちょうど緩効性の肥料を入れた効果と似ている感じですね」
元肥の成分をゆっくり分解して、じっくり吸収させる。バクタモン®には、そんな効果もあるのです。
こうして掘り上げたゴボウは、繊維質が多くてもやわらかく食べやすいゴボウを育てる。須澤さんの団粒構造をもつ土づくりへのこだわりは、こんなところにも生きています。
バクタモン®は、長芋栽培でも活躍
さて、レタス畑の向こうに、こんもりとグリーンの蔓と葉に覆われた区画が見えます。
「あれは長芋です。この地域では昔から栽培されていて、うちでは祖父の時代から作っていました。当時に比べると生産量は少なくなりましたが、年末の商材や贈答品として、今でも地元の人たちに喜ばれています」
そんな長芋栽培の1年を見てみましょう。
長芋栽培には、前作にできたイモの一部を土中で越冬させて春になったら掘り起こし、1片を80~100gに輪切りしたものを干して、種イモとして使います。
「種イモは、自家のイモをずっと更新し続けている人、毎年新たに購入する人、少しずつ新しい種イモを買って入れ替えていく人……農家によってさまざま。うちは、その年収穫した長芋の出来具合を確認しながら、不定期に少しずつ更新しています」
植え付けは5月に行いますが、春はレタスの定植を進めつつ、ゴボウと長芋の作付けの準備をする時期でもあり、毎年大忙しになります。
ゴボウと同じようにトレンチャーで深く溝を切り、間隔をあけて種イモを植え付けると、両端から蔓が伸びていきます。8月には、地上に立てた支柱とネットに絡まってグリーンの葉が全体を覆い尽くしていました。先の尖った葉がめいっぱい太陽光を浴びて光合成する間、土中ではじわじわとイモが太っていきます。
そんな長芋栽培にも、悩みがありました。
「褐色腐敗病。イモの表面が黒ずんで、中身も腐ってしまう病気です」
これを防ぐには、種イモの植え付け時の土壌消毒が欠かせませんが、それだけでは防ぎきれません。ところが、土壌消毒後に土にバクタモン®を施すと、
「この病気を防いで、肌のきれいな長芋が育つ。その効果が高いのです」
おそらくバクタモン®は病原菌を退治しているわけではなく、ともに土中に存在することで病原菌を寄せ付けない。そんな役目を果たしているようです。
さらに須澤さんによれば、
「長芋の褐色腐敗病と、レタスの根腐れ病は、同じ菌が原因なので、夏のレタスの栽培にも使っています」
とのこと。土の中で病原菌を防ぐバクタモン®は、レタスにも長芋にも欠かせない存在になっています。
11月下旬、須澤さんから収穫を迎えた長芋の写真が届きました。土中で栄養分を蓄えて育ったイモは、長さ50~80㎝に生長し、皮肌も美しく育っていました。これこそ須澤さんが「団粒構造のある土」にこだわり、土づくりを探求し続けた努力の賜物です。
須澤さん親子が微生物資材を使い始めた当初、これまでの化学肥料の蓄積分を考慮して、有機質肥料を使っていました。ところが数年栽培を続けるうちに、土中の肥料分が作物に吸収され、必要な養分が不足していきます。それ以降、化学肥料の量を最小限に抑えて使用しています。
化学肥料が悪いというわけではなく、使いすぎがよくないという認識で、施肥量を考え、肥料設計をして、なおかつ作物に必要な養分のみを的確に供給する、そのバランスの見極めが難しいと感じています。
「化学肥料は水に溶ければすぐ吸えるので、作物は根を張りません。だけど健康な作物を育てるには、肥料分や養分を自ら求めて元気に伸びていく毛細根が必要なのです。そして細胞を強化する微量要素も大事だと、だんだんわかってきました」
年々気候や環境が厳しさを増す中で、化学肥料に頼った栽培はさらに難しくなると感じる反面、父とその仲間たちが始めた土づくりの確かさを感じることが多くなったという須澤さん。水分と肥料分を保持する団粒構造を作るには、微生物や鉱物、緑肥など、多彩な資材を駆使した栽培が欠かせませんが、
「健康な土から生まれた農産物の評価がもっと高く。そんな流れが生まれることを願っています」
静かにそう話されていました。
2024年8月22日
取材・文/三好かやの
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