1日に800人!? 山のジェラート店
和歌山駅から山間部へ、車で約1時間。紀美野町の貴志川沿いの山道をどんどん登った先に、
『kiminōka(キミノーカ)~農家が作るジェラート店~』という小さな店があります。
うちで作る野菜や果物を使って、ジェラートを作っています。息子の哲志が4年前に開きました。こんな山の中ですが、土日はえらい人気で1日800人を超える日もあります」と嬉しそうに話すのは、宇城栄治さん(66歳)。
山の中にありながら、年間4~5万人が訪れる人気スポットになっています。お店の周囲にはサンショウの木が約60本。香り高い葉を茂らせ、先端には小さなグリーンの果実をいっぱい実らせていました。
訪れた7月11日。山小屋風の店内のショーケースには、『えんどう豆』『ほうれん草』『かぼちゃ』『八朔ソルベ』『干し柿ワイン』など、色とりどりのジェラートが並んでいます。中でも一番人気は『山椒ミルク』。生のサンショウの葉を使った淡いグリーンのジェラートで、口にすると爽やかな香りが感じられます。
     


一本で五度稼ぐ樹
独特の芳香を放つサンショウの葉は『木の芽』と呼ばれ、春の筍料理などのあしらいとして欠かせない存在です。その実を乾燥させた粉末は、うなぎの蒲焼の味わいを引き立てます。生の小さな青い実をよく見ると、皮の表面にミカンのような粒々が…。サンショウはミカン科サンショウ属に属する落葉樹で、柑橘類の一種。小粒ながらもピリリと辛い、立派なミカンの仲間なのです。
サンショウは江戸時代から各地で栽培されてきましたが、現在は和歌山県が生産量日本一。中でも紀美野町と隣の有田川町での栽培がさかんで、この2町で全国生産量の約8割を占めています。日本では主に『アサクラサンショウ(朝倉山椒)』と、大粒で果実がブドウのようにたわわに実る『ブドウサンショウ(葡萄山椒)』が栽培されていますが、宇城さんの畑では有田川町の清水地区で生まれたブドウサンショウを栽培しています。
宇城さんの栽培面積は、全部で60a。園地は7カ所に点在していて、1カ所に60~70本の樹が植えられています。「1カ所の実を採るのに20日以上かかりますが、よく稼ぐ樹です」。
というのも、サンショウは他の柑橘類と異なり、『一本で五度稼げる樹』だから。その収穫は、まず春の木の芽(新芽)に始まります。続いて花が咲くと花山椒(雄花)、梅雨時に青い実を収穫。それは塩漬けや佃煮の材料になります。7月になると種子が熟した乾果を収穫。こちらは香辛料(スパイス)や漢方薬の原料に。漢方薬の世界では大建中湯(だいけんちゅうとう)という胃腸薬の材料に。また手術を受けた患者さんに、じっくり回復を促す作用もあるそうです。紀美野町では、農家が数本ずつ樹を植えて栽培していたのですが、20年ほど前から漢方薬の製薬会社の依頼で、契約栽培が行われるようになり、生産量が増えてきました。
そして最後は「木の枝を切って、先端を丸めれば、すりこぎとして使えます」。
葉も花も実も、そして樹も。無駄なく使えて販売できる。たしかに『一本で五度稼ぐ』。サンショウにはそんな特徴があるのです。

かつてサンショウといえば、木の芽や粉山椒、ちりめん山椒など、その使い道は和食の一部に限られていました。ところが最近になって、「チョコレートと相性がいい」と、有名なパティシエが使い始めたり、「香りが和を感じさせる」と、フランス料理のシェフがソースに使うなど、洋の東西を問わずに広がっています。
そんな中で息子の哲志さん(43歳)が独自に開発した『山椒ミルク』は、さまざまなアイスクリームやジェラートを食べ慣れた日本人にとって斬新な風味。それでいて懐かしい香りがする…と評判に。しかも目の前にサンショウ畑が広がる山の中で味わうのはまた格別。わざわざやってくる価値があると、和歌山県内はもとより、大阪、神戸、京都、奈良など、遠方からやってくる人が少なくありません。


不安定な生産量を安定させたい
宇城さんの家では、父の栄治さん、哲志さんもともに脱サラして就農しました。元々山がちで、柑橘類や柿を中心として果樹栽培のさかんなエリアですが、栄治さん夫妻はサンショウや柿、哲志さん夫妻は野菜の栽培とジェラートの製造販売を担当しています。
宇城さんが、バクタモン®に出逢ったのは15年ほど前。柑橘類は『隔年結果』といって、一年おきに豊作不作を繰り返すのですが、中でもサンショウにはその現象が顕著で、年によって生産量が増えたり、減ったりすることに悩まされていました。
なんとか生産量を安定させたい
そう考えたとき、紀の川市で肥料店を営む吉岡義雄さんのすすめで、バクタモンを使い始めました。
春先に10a当りに40kgのバクタモンを施用。4月に入り花が咲きだすと、これを水を溶かして葉面散布します。サンショウには雄株と雌株があり、雄株に雄花、雌株には雌花が咲いて、これが果実になります。まるで線香花火のようにたくさんの花が咲きますが、すべてが実になるわけではありません。できるだけ咲いた雌花の生理落下を防いで、より多くの実を結実させるために、バクタモンは有効にはたらくのです。こうしてバクタモンを使うようになってから、10a当り150kg前後と、毎年安定した収量が得られるようになりました。また、通常サンショウの樹の寿命は15年前後といわれ、10年を超えると一房あたりの結実数が100粒から30粒前後に落ちるため改植が必要ですが、宇城さんの圃場には樹齢25年を超える樹も少なくありません。
バクタモンには、成木が健康な現役として活躍できる時間を延ばすはたらきもあるのです


ジェラートになっても違いがわかる
さて、息子の哲志さんは、多彩な野菜を栽培していますが、そこにもバクタモンを使っていて、ジェラートの材料にもなっています。
作物の味や香りを最大限に引き出す。その考え方は、私のサンショウや柑橘、柿と一緒です」と、栄治さん。
ある時、トマトのジェラートが品切れになってしまいました。そこでやむなく、近くの農家から仕入れて使っていたのですが、それを食べたお客さんから「あれ、トマト変えたでしょ。前のと違う」と言われてしまいました。
わかる人には、ジェラートになっても、違いがわかってしまうんですね。驚きました」。
哲志さんは、バクタモンを使って露地でトマト栽培をしています。そのコクや香りや食感の違いがジェラートになっても出てしまう。それは他の野菜やフルーツ、そしてサンショウにも現れているようです。


糖度77.4。まるで羊羹!な干し柿
秋になると柿の収穫が始まります。栽培しているのは扁平な形の平核無柿(ひらたねなしがき)。これの皮を剥き、乾燥させて干し柿にしますが、今年は収穫目前の10月に何度も台風に見舞われました。
果樹栽培は、一年一年が勉強で、いい年もあれば悪い年もあります。だけど、今年は本当に大変なシーズンでした」と振り返る宇城さん。
収穫間際に大量の雨が降ると、果樹の根は一気に土中の水と窒素を吸い上げて、裂果や食味が落ちる原因となります。そんな時、土壌にバクタモンを施してある園地では、根より先にバクタモン中の微生物が窒素の肥効力を調整して、じっくりじわじわと効かすので、組織が緻密で、糖度の高い果実が生まれるのです。
天候不順は避けられず、今年は大量の雨が降りましたが、それでも糖度20は超えていると思います」。
通常、平核無柿の糖度は14~15度といわれていますが、元々渋柿なので、脱渋しなければ食べられません。糖度20度以上の柿を、乾燥させて甘味を凝縮させると、どんな干し柿になるでしょう?
樹上でギリギリまで完熟させた柿の皮をむき、4つにカット。これを乾燥機で乾かすと、鮮やかなオレンジ色に。一口大の干し柿ができあがります。
糖度を測定したら77.4度。まるで老舗の羊羹のようです」。
通常干し柿の糖度は40度前後なので倍近い値です。そんな宇城さんの干し柿は、関西の高級スーパーや東京銀座の老舗百貨店、そしてインターネットの『セコムの食』でも、紀美野町の『ひとくち干し柿』として販売中。贈答品としても評価の高い、人気商品です。
http://www.secomfoods.com/item/detail.asp?SHN=0001FD071222


抗酸化力も抜群!
そんな宇城さんの干し柿は、2016年2月14日に開催されたオーガニックフェスタin徳島の加工品部門で、『日本有機農業普及協会賞』を受賞。食味は最高レベルの『5』。抗酸化力は231.4TEmg/100gで、通常の干し柿の3倍以上の値をマークしています。
総評のコメントとして『食味に関しては、コクのある上品な甘味が感じられ、べたつきがなく、程よい硬さで食感が良く、柿の風味が濃く感じられる』とのこと。
ずば抜けた評価を得ています。

単に甘味が強いだけでなく、味わう人が「もう一つ」食べたくなる風味があり、食べた人の健康にも寄与されるーそんな干し柿作りには《バクタモンとマグネシウム》の組み合わせが欠かせないといいます。
春先の圃場の散布に始まって、葉面散布やお礼肥。そんな一年を通じた土づくりがあってこその受賞だと思います」。


山村に新しい食文化を…
とはいえ、周囲の農家の平均年齢は75歳。地域の高齢化が進む中で、父子で栽培と6次化に邁進している宇城さんへの期待も高まっています。4年前、ジェラート店を開業し、都会から多くの人がやってくるようになってから、少しずつ周囲の状況も変わってきました。
フランス料理店、イタリア料理店にピザ屋さん。パン屋さんにそして哲志さんのジェラート店。若い店主が地元の食材を使って料理を提供する店が点在するようになってきたのです。そこで哲志さんの栽培する野菜も使われています。
かつて、金融機関に勤務していた哲志さん。店舗の事業計画はもちろん、自分で栽培した農産物を使ったジェラートの商品開発も自ら担当。シミュレーションと試作を何度も重ねて、開業に漕ぎ着けました。
サンショウの辛味を抑えつつ、香りなどの風味が全面に出るようにしています」。
春は爽やかな香りの木の芽を使った『山椒ミルク』。夏から冬にかけては、山椒の乾果とチョコレートを合わせた『山椒チョコ』が人気。長らく和食を中心に使われてきたサンショウの新たな魅力を伝えています。
来年は『一年で五度』とれる収穫物のひとつ、「雄花の『花山椒』を積極的に売り出していきたい」と栄治さん。
和歌山の山里から、香りの高い山椒の香りとともに、また新しい農産物が全国へ、そして世界へ広がっていきそうです。

●kiminōka(キミノーカ)
 ~農家が作るジェラート店~
和歌山県海草郡紀美野町三尾川785-3
TEL 073-495-2910
営業時間/11時~17時
定休日/月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
http://kiminoka.com



2017年7月 取材・文/三好かやの

 




マルヤファーム様
「糖度世界一、ギネスが認めた包近のモモ」

(株)吉岡農園様
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(株)村上ファーム様
「コウノトリ舞う里で生まれる、大粒の黒大豆」

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「健康を取り戻すためにリンゴを栽培。人も地域も元気に」


坂東明文様
「表層施肥栽培に出逢って・・・」