鹿児島県北西部に位置する薩摩川内市は、東シナ海に面した人口9万3千人の都市です。
(有)松山農産の松山健郎さん(62歳)は、肉牛肥育の経験を生かし、ここで18年前に畜産由来の有機質堆肥の製造を始めました。
『夢ゆうき.21』と名付けられたその堆肥は、「使いやすい」「野菜がよくできる」「味がいい」、しかも「連作障害がない」と評判です。


堆肥舎では微生物が大活躍
川内駅から北へ車で15分。山間の静かな場所に松山さんの堆肥場があります。屋根の下には、牛ふんと鶏ふんベースの堆肥が常に山積みに。近づいてよく見ると、表面に白い粉のようなものが浮き出ています。
糸状菌の一種ですね。バクタモン®由来の菌がよく動いている証拠。これができていれば安心です。
そんな話をしていると、坂道を白い軽トラが登ってきました。堆肥場の前で荷台を持ち上げると、「ダダダーッ!」
中からにんじん、ごぼうの皮、未使用のさつまいも……大量の食品残渣がなだれ落ちてきました。煮物や焼き芋を作る食品工場から出た生ゴミです。「うちは、ここがなければ成り立ちません」と、積み荷を降ろした運転手さん。さらに「ゴミは毎日出るし、市の処分場に持って行けば、経費もかかります。ここなら袋に詰めずに一気にダーッと下ろせるし、費用も安くしていただいているので、助かっています」と話していました。
松山さんは、届いた生ゴミに堆肥の発酵用に開発された『発酵名人®』をふりかけます。さらにタイヤショベルを操って、上から鶏ふんを混ぜ合わせていきます。そして奥にある大量の牛ふんの山の中へ――。切り返すと「ぼわっ」と中から湯気が立ち昇りました。
いろんな菌を試しましたが、発酵温度の立ち上がりが一番早いのが発酵名人®。翌日にはもう60~70℃になっていて、この状態で1カ月熟成させます。これが一次発酵です。
大量の水分を含む生ゴミは、届いたらすぐ乾燥した鶏糞と混ぜ合わせ、水分調整することが肝心。「ここで後々の勝負が決まる」と松山さん。つまり堆肥の出来・不出来を左右するのです。
それを奥に積み上げ、上から牛ふんを被せるのは生ゴミを狙ってやってくる、カラスやタヌキ、イノシシから素早く隠すためであり、さらにこの段階で適正な量の牛ふんを混合するためです。
堆肥場には大量の畜ふんが置かれ、生ゴミが次々と投入されていきますが、不思議なことに悪臭や腐敗臭はなく、ハエの姿も見えません。
これもまた、発酵名人®の効果ですね


畜産から堆肥製造業へ
松山さんは、地元の農業高校へ進学。在学中からオスの子牛を一頭預り、自宅で飼育するほど熱心な農業青年でした。卒業後、畜産講習所へ進学。2年間学んだ後、経済連の斡旋指導員として飼育指導を担当しましたが、どうしても「自分で牛を飼いたい」と、22歳で本格的に肉牛の肥育を始めます。
飼育技術が未熟で、なかなか高ランクの肉質にはなりませんでしたが、それでも丁寧に牛を育てれば、なんとか採算が取れる時代でした
同時期に農機具の関連会社の誘いを受け就職。牛、豚、鶏の飼料を作る機械を販売しながら農家の指導を担当し、家に帰って牛の飼育も続けていました。
牛の飼料について学ぶ中で、ある時知人を介して「いい菌があるよ」と紹介されたのがバクタモン®の姉妹品BMエルド®でした。牛のエサに混ぜて与えると、ふんの臭いが軽減し、家畜自体が健康になりました。
牛には4つの胃がありますが、風邪を引いて熱を出すと、胃の動きが鈍くなり、食欲も減退します。ところが、
獣医さんが、牛の胃に聴診器を当てて不思議がっていました。『こんなに熱があったら、胃の動きが止まるのに、この牛は動いている』と。注射を打つとすぐ治りました
その牛が排泄したふんは、表面に白い菌がバーッと走って、堆肥化が早く、さらに発酵して乾燥が進むので、日持ちがいいこともわかりました。

26歳で畜産一筋に。農協の牛を預かり飼育料を受け取る牛の預託制度を活用して、頭数を増やしていきました。そして28歳で結婚。
2人で旅行に出かけたのは、新婚旅行の沖縄へ2日間だけ。それでも牛が気になって気になって…
土日も祭日も、お盆も正月もなく、365日牛の体調管理は続きます。農協青年部の会合等で出張する時は、留守中のエサを準備して妻に託して出かける、気の抜けない毎日。それでも30、50、120頭と、順調に飼育頭数を増やしていきました。


こだわりの堆肥を作ろう!
こうして育てた松山さんの牛肉は、必ずしもサシの多い「A5」ランクでなくとも、「これはおいしい牛だ」と、京都の市場で高い評価を得ていました。
しかし、格付けありきの牛肉の世界では、なかなか高値がつきません。
牛の相場は安定しないし、評価は高いのに、価格は格付けで決まってしまう。このままでは面白くない。自分で仕入れ、こだわって作ったものを、自分でつけた価格で販売したい
牛を飼いながら作っていた堆肥は、「野菜がおいしくできる」と評判でした。この作り方で間違いないと確信していた松山さんは「こだわりの堆肥を作って販売していこう!」と決めました。
折しも、1999年11月に「家畜排せつ物法」が施行され、それまで放任されていた、家畜の排泄物の野積みや素掘りが禁止に。周りの畜産農家は、その処理に頭を悩ませるようになっていたのです。
松山さんは牛を手放し、「畜産環境保全リース事業」を活用。大型攪拌機を導入して、堆肥製造プラントを設立しました。
県から産業廃棄物処理、市から一般廃棄物処理の許可を得て、2000年から堆肥事業をスタート。現在も当時導入したプラントが稼働しています。
下からブロアーで空気を入れ、上から攪拌機が移動して堆肥をゆっくりかき混ぜていくと、もうもうと湯気が立ち上ります。ここでも酸素を得た微生物が、有機物を発酵させ分解を続けているのです。
一次発酵させた堆肥を、ここに投入して攪拌。さらに1カ月かけて熟成させて送り出していきますが、だんだん乾燥してくるので、うちは乾かないように焼酎かすをまいて、水分調整する。それが二次発酵です
攪拌層から出てきた堆肥を切り返し、さらに1カ月かけて三次発酵。合わせて最短3カ月じっくり熟成した後、ふるいにかけて細かくなった堆肥を袋詰め。こうしてようやく三段階発酵の『夢ゆうき.21』が完成します。


堆肥でありながら肥料効果も抜群!
そんな松山さんの堆肥には、どんな効果があるのでしょう?
2015年1月の成分分析の結果から、以下のようなことが読み取れます。
「C/N比は10」。これは、窒素分が高い値。九州農政局の調査によると、一般的な畜産系堆肥は、牛ふんが15~30、豚ふんで10~15、鶏ふんで10以下で、この値が低いほど、肥料効果が高いことを示しています。
ほぼこれだけで野菜ができます」と松山さん。
作物の生長に不可欠な窒素の含有量が1.9%以上と、高いのも特徴です。
通常、牛ふんを10a当り2t以上入れなさいと指導しますが、うちの堆肥は500~600kgで十分。また堆肥の中でバクタモン®菌が生きているので、土中で未分解の有機物をもう一度分解して効かせてくれます
『夢ゆうき.21』は、堆肥としての土壌の物理的改善効果はもちろん、肥料成分もあり、さらに土中に残った有機質も分解する…一石三鳥の効果をもたらします。

そんな松山さんが、目の前で堆肥の水溶性試験を見せてくれました。ペットボトルに『夢ゆうき.21』と、他社製の牛ふん堆肥を水にいれ、「シャカシャカ」と振って攪拌します。しばらくすると、他社製の堆肥は軽い木屑などが浮き上がり、他の物質は沈殿し、分離していきます。
木屑が浮くのは、まだ木質そのものが分解されていない証拠。このまま土に入れても、土中の微生物が分解しなければなりません。即効性はないし、二度手間になるわけですね
一方、松山さんの堆肥は、時間がたっても混濁したまま。なかなか沈殿しません。
水に溶けるということは、堆肥が腐植質まで分解している印。ここまで分解されているから、即効性と緩行性を兼ね備え、さらに連作障害のない有機肥料にもなる。さらに、これをろ過して薄めれば、液肥としても使えます。こんな堆肥は滅多にありません
畜産家から堆肥メーカーに転身した松山さんは、自社製の『夢ゆうき.21』をトラックに積んで、鹿児島と熊本の農家を一軒一軒訪ね歩き、営業を重ねました。
ごめんください。堆肥はいかがでしょう?
松山さんの堆肥を、最初に高く評価してくれたのは、熊本県の山間部で家庭菜園を営んでいる人たちでした。崖っぷちの小さな畑で、自家用に多品目の野菜を育てている。そんな場所で威力を発揮して、狭くて連作は無理といわれていた場所でも、毎年トマトや豆類が、よくできるのです。
野菜の味がよくなるし、栽培も楽になる。夢ゆうき.21は堆肥でありながら、土づくりが一発でできる。そこが何よりの強みです
バクタモン®菌で発酵された堆肥には、そんな効果もあるのです。最初は慣れない飛び込み営業に苦労しましたが、『夢ゆうき.21』の評価は高まり、九州全域に広まりました。


35年作っても土壌消毒不要
では、プロの農家はどんな評価をしているのでしょう?鹿児島県を南下して、指宿市へやってきました。
野菜農家のリーダー増永真美さんは、松山さんとは30年来の付き合い。『夢ゆうき.21』を高く評価しています。
訪れたのは○に(まるに)青果。増永さんは、生産者でありながら、栽培方法を公開していて、松山さんの堆肥とバクタモン®、貝化石、ニーム剤などを使った栽培方法を実践。それを仲間の生産者と学び合う勉強会も独自に開いていて、仲間からは「先生」と呼ばれています。
この日集荷場には、出荷間近のズッキーニ。果皮がつやつやと輝いて、美味しそうに並んでいました。これを一度カットして、再びくっつけたものを持ち上げても、なかなか離れません。
健康的な植物体である印です。
同じハウスで35年オクラを作っていますが、連作障害はなく、土壌消毒もしていません
同じ作物を作り続けると、土壌成分が偏り、病害も発生しやすいといわれています。それが起きないのは、なぜでしょう?
植物体の根は、栄養分を吸収するだけでなく、排泄も行っています。この排泄物が土壌病害の原因だと考えられますが、微生物はこれも分解していて、バクタモン®には、その排泄物を無害化する効果があるのです」と松山さん。

増永さんのハウスでは、3月半ばに定植したキュウリの苗から約1カ月で収穫が始まります。
「これが一番果。根が張るのが早いから、生長も早い」と増永さん。
土づくりがうまくいっている証拠ですね」と松山さん。

松山さんと他社の堆肥の違いについて、増永さんは、
「みんな一次発酵で終わっているけれど、松山さんは3段階発酵させている。本当の意味での完熟堆肥です」
堆肥の違いは、そこで栽培される作物と、土壌環境の持続性にも大きく影響を与えることを物語っていました。


バクタモン®の故郷、満州へ
そんな松山さんは、50歳の頃から中国語を学び、10年前から中国や内モンゴル自治区へ飛び、堆肥製造の技術指導に当たることになりました。最初に訪れたのは、中国東北部。かつて松山さんの両親が暮らしていた旧満州地帯でした。冬は-20℃以下になる極寒の地。野積みした牛ふんは、カッチンコッチンに凍ってしまいます。
そもそも現地の人たちには、”堆肥”という概念が、ほぼないのです
せっかくの有機質の材料も、ほぼ生の状態で土に鋤き込んだり、燃料として燃やしたり。土壌は硬く、化学肥料と農薬を使った栽培が主流になっているそうです。松山さんは、そんな場所で、一次、二次、三次発酵まで進めた、完熟堆肥の作り方と、それを使った農業を広めたいと、何度も現地へ足を運び、ようやく堆肥製造工場が稼働するまでになりました。

そしてその堆肥を作って栽培した野菜たちも見事に育っています。特にオクラは「甘くて粘りもすごい!」と評判に。じゃがいもの初期生育も、きゅうりもこの通り順調です。






中国の黒竜江省から遼寧省を旅していた時、松山さんは見事なトウモロコシ畑を通り過ぎました。
黒土で、見渡す限り一面にトウモロコシがぶわーっと伸びて、本当に見事な出来栄えでした。バクタモン®は、きっとこの場所で生まれたに違いない!
そう、松山さんは、バクタモン®のルーツが、戦時中の満州にあったことを知っていたのです。だからこの地域の畑を目の当たりにした時、その出来栄えのすばらしさに感動し、納得することができました。

それは今から70年ほど前――。第二次世界大戦の頃、満州のとある地域に、何もしなくても作物がものすごく良く育つ、肥沃な大地がありました。それを知った日本陸軍の大将は「これは土に秘密があるに違いない」と確信。現地の土を貨車に乗せ、元海軍中将の草鹿龍之介氏に託しました。
その土は船に乗って海を渡り、神戸港へ到着。元京都帝国大学教授の吉岡藤作氏の元に届けられ、吉岡氏がこれを分析すると、そこには多くの微生物が含まれていました。それを元に日本に存在する有用な微生物を選抜して誕生したのが、バクタモン®のはじまりと伝えられています。以来70年、日本の農家で活躍し、微生物の力を発揮して、土を肥やし、食味の高い農産物を生み出してきました。

今、日本でも中国でも、家畜の排泄物が問題視され、土壌や水質を悪化させる環境汚染との元凶とされています。
牛ふんは、目の前から消えてしまえばいいと。まるで邪魔者扱いです
残念ながら、今『夢ゆうき.21』を、中国に輸出することはできません。松山さんは、現地の畜産系の廃棄物を使った堆肥の製造技術と土壌改良材、そして堆肥製造に必要な攪拌機や電気送風機などを届けています。
2018年はすでに50tの土壌改良材を輸出しました。来年は100t以上の契約を結んでいます
ここまで10年の歳月を要しました。やっと利益を生み出す形ができあがった今年は、記念すべき節目の年となりました。
中国をひと通り回り尽くしたら、ベトナム、マレーシア、東南アジアへ。その後さらに西へ向かってインド、パキスタン、トルコ……最後はアフリカまで有機肥料製造技術を伝えたい。人生の最後をケープタウンで迎えられたら本望です(笑)

いずこの国の廃棄物も、微生物の力を借りてちゃんと発酵させれば、地力を上げて食味のよい農産物を生み出す『宝物』に生まれ変わるはず。松山さんは、鹿児島を拠点に世界へ向けて、「一発で土づくりができる堆肥」の製造技術を広め続けています。



2018年4月26日 取材・文/三好かやの

 




マルヤファーム様
「糖度世界一、ギネスが認めた包近のモモ」

(株)吉岡農園様
「土とともに40余年。栽培から販売まで、自ら手本を示す和歌山の肥料店」

宇城農園様
「『山椒ミルク』が大人気、山の中のジェラート店」


(株)村上ファーム様
「コウノトリ舞う里で生まれる、大粒の黒大豆」

廣井昌利様
「健康と取り戻すためにリンゴを栽培。人も地域も元気に。」


(有)ファームランド豊様
「イモ、豆、カボチャ…温暖な気候と微生物のチカラで、多品目の露地栽培を実現」

(有)須田フルーツ様
「キラリと輝く果実は土づくりから」


(有)おりた園様
「バクタモンで世界に通じる緑茶を育てる」


(株)いかりスーパーマーケット様
「求めるのは、低投与型の優菜農場®」

(株)しろとり動物園様
「小さな微生物から大きなゾウまで、みんな学べる動物園」


坂東明文様
「表層施肥栽培に出逢って・・・」