神奈川県の湘南地域に位置する平塚市にある神奈川肥料(株)では、鶏糞堆肥を主原料としてバクタモン®を加えたオリジナルの土壌改良肥料を販売しています。
その名も≪拮抗(きっこう)≫。製造現場を訪ねました。





白さは、完全発酵鶏糞の証
平塚の市街地から車で北へ40分。愛川町三増地区に「神奈川中央養鶏農業協同組合」があります。日本では珍しい養鶏専門の農協で、昭和32年に7人の養鶏家がスタート。日本の農場の先駆け的存在です。現在、敷地内には14の農場があり、合わせて70万羽の鶏を飼育。鶏卵と一緒に1日15tの鶏糞を排出しますが、これを1カ所に集めて、発酵鶏糞を製造しています。プラントを管理している、同組合の佐藤洋夫さんによれば、
鶏たちには、遺伝子組み換えでない飼料を与えていて、鶏糞が肥料になるまで化学成分、農薬、除草剤等が混入しないように製造しています。できた発酵鶏糞堆肥は、国が定める≪有機JAS資材≫にも登録されています。

農場内のプラントでは、鶏糞に空気を送り込みながら攪拌させ、「5泊6日」で一次発酵を進めていきます。もうもうと湯気が立ち昇り、温度は70℃以上。そこに達しているかどうか毎日確認しています。
さらに15~20日かけて二次発酵。堆積したものを切り返して約30日熟成させ、続いて10~15日かけて三次発酵。最初は茶色い粘土状で鶏糞特有の臭いを漂わせていた鶏糞が、時間と手間をかけ発酵させるうちに、サラサラとした白い粉末を丸い粒に分かれていきます。地面に溢れた粉末を踏みしめると、長靴やタイヤ痕がくっきり浮き出るほど微粒子になっているのです。
今、ホームセンター等で≪発酵鶏糞≫と称して売られている堆肥は、茶色く、ベトついて、土に入れてから発熱するものが多いのですが、本来はサラサラしていて悪臭も無く、粒が細かく、色が白い。それが完全に発酵した証です」(佐藤さん)


製造工程の最後にバクタモン®
そんな鶏糞堆肥に、さらにバクタモン®と貝化石を添加して生まれたのが、神奈川肥料(株)の
≪拮抗≫です。創業者の窪田耕一さん(85歳)は、今から35年ほど前、ある微生物で発酵させた堆肥の代理店を勤めていました。
元々農家生まれの耕一さん。いつからか自分が販売している肥料が「農家にとって、あまり有効な資材ではないのでは?」と感じるようになります。「それなら自分で作ろう!」と、1985年に法人化。近くの養鶏場の協力を得て、発酵鶏糞に菌体資材を混ぜて、独自に発酵肥料の開発を始めました。
土壌に散布された時、肥料分が植物体に無駄なく有効に吸収されるためには、どんな微生物を合わせればいいのだろう?試行錯誤を重ねた末、岡部産業(株)のバクタモン®に出会います。
家畜の排泄物から肥料を製造する場合、バクタモン®を一次~三次発酵の過程で使用するケースも少なくありません。ところが、神奈川肥料(株)では、堆肥そのものを発酵させるためではなく、完全に鶏糞が発酵した後、最後に混ぜるだけです。

開発を始めた当時、耕一さんは東京農業大学の川島栄教授(故人)に教わる機会を得ました。
川島教授は、バクタモン®の試験を実施して、その結果を学術的に発表。それを踏まえて、「微生物というのは、バクテリアなどの細菌からカビ菌類に至るまで、いろんな過程で変化していきます。堆肥の製造過程に使えば発酵に力を尽くし、肥料と混用すれば肥料を分解したり、調整するはたらきがあります。せっかく完全に発酵した鶏糞堆肥があるのなら、最後にバクタモン®を加えて商品化した方がよいのでは」とのアドバイスを受けたのです。
バクタモン®と一緒に藤田鉱業(株)の「貝化石エイト」を加えるのも≪拮抗≫の特徴。福島県塙町の隆起した地層から産出される貝化石が主原料で、これを育苗用の培土に加えると「根張りが違う!」「稲の苗箱をひっくり返しても、苗が落ちない」など、オドロキの声が多数寄せられています。


拮抗+バクタモン®=イチゴの根を元気に!
そんな≪拮抗≫を使って、すばらしいイチゴを栽培している生産者を訪ねました。それは平塚市の(株)佐奈田やの古屋義弘さん(54歳)。平塚市内には27軒のイチゴ農家があり、その栽培技術の高いことで知られています。
中でも、古屋さんが育てるイチゴは「食味がよい!」と評判が高く、横浜市内の高級フルーツ店で1トレイ(8・12・15粒入) 5,400円で販売されるほど。宮城県が開発した「もういっこ」と、群馬県の「やよいひめ」の2種類。その出来栄えは、いずれも品種の故郷の産地の人たちが「同じ品種とは思えない」と驚いているそうです。
古屋さんは、以前から量よりも味にこだわってイチゴ作りを続けてきました。その中で、5年ほど前に神奈川肥料(株)の≪拮抗≫に出会い、400坪のハウスに≪拮抗≫を35袋、さらにバクタモン®を2~3袋、貝化石を14袋、施用するようになりました。
≪拮抗≫を使うようになってから、一段とイチゴの”テリ”がよくなりました。売り場に並べるとピカピカに輝くので、うちのイチゴだと一目でわかります」と話す古屋さん。
4種類の有益菌を配合したバクタモン®は、植物ホルモンの一種であるオーキシンを生成して、根の生長を活発にするはたらきがあります。
イチゴの栽培で肝心なのは、根です。根っこが元気だと苗そのものも元気になる。土中の根を増やすためには菌体が必要で、とにかくしっかりはたらく菌を増やしたい。それにはバクタモン®が必要なのです
以前は近くの農産物直売所でイチゴを販売していた古屋さん。すると、それを食べた近くの市場関係者から「うちに出して欲しい」と要望があり、横浜の高級フルーツ店へ……。そんな古屋さんのイチゴはいつしか「神奈川で最も高価なイチゴ」として知られるようになりました。

古屋さんがイチゴを収穫するのは夜。電照を灯したハウスの中で4~5時間かけて1粒ずつ丁寧に収穫します。そして翌日時間をかけて、じっくり選別。手に医療用手袋をはめて、凹みのあるソフトトレイに一粒一粒、重さと弾力を確かめながら並べていきます。まるで真っ赤な宝石を扱っているかのよう。その姿から、さらに高みを目指そうとする意欲が伝わってきます。


平塚生まれの新品種「はるみ」が特Aに
最近≪拮抗≫の愛用者の間で、うれしい出来事がありました。平塚市の米農家、古屋忠文さん(69歳)が栽培する、お米の品種「はるみ」が、日本穀物検定協会主催の「お米の食味ランキング」で、2016年、2017年の2年連続で「特A」に輝いたのです。
「はるみ」は、神奈川県平塚市の全農営農・技術センターが19年かけて開発した新品種。地元で主力の「キヌヒカリ」の後継品種として関心が高まっています。
以前は『湘南6号』という名で呼ばれていました。それまで自家用米には短棹のコシヒカリを作っていたのですが、7年前に種子をいただいて作ってみたら、とても美味しかったので、作り始めました。」(忠文さん)
「はるみ」は、粒が大きく、炊き上がるとツヤがあり、冷めてもおいしいのが特徴です。大産地のお米でも「特A」を取るのは至難の技といわれる中、地元で生まれた新品種がいきなり「特A」にランク付けされるのは、めざましい快挙。そのニュースは平塚市をはじめ、地元の米農家や神奈川県民の間に朗報として伝わりました。2015年、「はるみ」は神奈川県の奨励品種となり、湘南地域を中心に県内の米農家の間に一気に広がっています。
実はこの「はるみ」の育苗用培土にも≪拮抗≫とバクタモン®、貝化石が使われているのです。しっかり根を張った「はるみ」の苗は、水田に移植された後も品種のポテンシャルをフルに発揮。地元生まれの食味の高いお米として、高評価を得て、徐々に栽培面積を増やしています。
平塚生まれの『はるみ』が、≪拮抗≫やバクタモン®を使った栽培方法と一緒に広まっていけば、評価はさらに上がるはず」と、忠文さんは考えています。


有効菌を生かす熱水消毒を
こうして、発酵鶏糞と微生物のチカラが生きる≪拮抗≫を販売する中で、窪田さんがずっと感じていた疑問がありました。
日本の施設栽培では、収穫後の土壌消毒が欠かせません。臭化メチルやクロルピクリンを入れてガンガン消毒して、せっかく入れた有用な菌まで死滅させて、その後にまた菌体肥料を入れる……何かが違うのでは?
せっかく投入した有用微生物を温存させながら、有害な細菌やウイルス、昆虫、雑草の種子を死滅させる方法はないだろうか? それを模索し続ける中でヒントになったのは、秦野市のあるバラ園が行っていた土壌の消毒法でした。
その農家さんは、バラを改植するタイミングに合わせて、ハウスを5区画に分け、客土で土を入れ替えていました。ところが、それでも病気が入ってしまった。そこで、土中に管を埋めてハウスの温湯暖房機につなぎ、圃場を水田のように水浸しにして、お湯を10日間ほど循環させると、圃場の地温が上昇し、バラの病気が治ったというのです。そこに熱水消毒のヒントがありました」と、耕一さんの長男で代表取締役の窪田一豊さん(57歳)。土中の有用な菌を生かしながら消毒を行うには、土中に直接熱湯を流せばよいのでは? それが神奈川肥料(株)の『熱水消毒』のはじまりでした。
熱水消毒は、海外にも前例のない、日本独自の方法です。しかし、それは温湯暖房機を常設しているバラ農家だから可能な技だったわけで、その原理を基に野菜のハウス栽培や露地栽培で、効果的に展開するには、どうすればいいのだろう?

窪田さんは、元神奈川県の農業技術センターの北宜裕さんの協力を得て、世界初の熱水土壌消毒装置を開発。さらに元野菜茶業研究所病害虫研究室長の西和文さんと一緒に、熱水消毒普及のために、装置とともに全国を巡りました。
1987年最初に登場したのは「牽引式(神奈川方式)」の装置でした。移動式のボイラーを、ハウスの隣に設置。ハウスと同じ重油でお湯を沸かし、ステンレス製の散布機から80~97℃の熱水を土中に流しながら、専用のウインチで牽引します。
熱水の量は、作物や病害の状況によって異なります。根の深いトマトは1㎡あたり250ℓ、根の浅いほうれん草なら100ℓぐらい。栽培期間の長さや、根の深さ、汚染されている病気の種類によって異なるので、1棟に10時間かかる場合もあれば、20時間かかる場合もあります。」と一豊さん。
続いて登場したのは、チューブ方式。潅水チューブを圃場全体に等間隔に並べ、熱水を少しずつ、時間をかけて土中に浸みこませていく方法です。
田んぼの跡地の、ナバナの圃場で実証しました。どんどんお湯を入れても流れてしまうので、広範囲に時間をかけて、しとしと雨のような形でお湯をかける消毒法。多少、傾斜のある場所でも有効です。
これらの方法は、ハイポニカを使用したトマトの水耕栽培や、ロックウールの培地でも採用され、高知のミョウガ農家、瀬戸内海に浮かぶ愛媛県馬島のトルコキキョウ農家などでも活躍されています。
熱水で大部分の病原菌は死滅します。しかも、薬剤を使った消毒よりも、土の回復は早く、ピーマンのモザイク病やメロンのつる割病、根こぶセンチュウや黒点根腐病、トマトの青枯病等を防ぐ結果が出ています。

これまで熱水消毒は、その効果が分かっていてもコストが高く、家族経営の農家では手軽に導入できないのが難点でした。でも最近、神奈川県のさがみ農協のように、独自に5台の熱水消毒装置を導入して、職員を派遣して組合員の圃場を消毒する事業もスタート。一般の野菜や花農家にも、より身近な存在となってきました。

熱水消毒が威力を発揮するのは、どんな圃場なのでしょうか?
これまで化成肥料を多投して、連作が続いていて、圃場を休ませずに作り続けているところ。また有機質でも生に近い状態の堆肥を入れたところ。本来は土地を休ませて、土を回復させるのが一番なのですが、それは『待てない』と。そんな圃場を熱水で一気にきれいにして、バクタモン®のようないい菌を入れて、活躍させるのが再生への近道だと思います」。

薬剤を使わず、熱水の力で土壌をリフレッシュ!すっきりした圃場で、≪拮抗≫やバクタモン®が活躍する。クリーンな土壌消毒と、微生物の力を組み合わせ、環境に負荷のかからない、循環型の農業をバックアップしています。


■神奈川肥料株式会社 http://www.kanagawa-nessui.co.jp/



2019年1月8日 取材・文/三好かやの



 




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