農との出会い…
                               元東京農業大学 教授 金木良三農学博士

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6.地力と土壌…
 一方、土壌学も逐年研究が進み、作物生産環境の母体である土壌についても色々知見が知られるようになった。特に耕地土壌の三相-即ち、固相、気相、水相の割合は作物地下部の生育、所謂滋植(地下における根の発育、分布の状態)に影響するところが大きいことが分って来た。
 固相とは、土壌の固体粒子でありその粒子間の間隙には水圏、気圏が存在する。水圏が水相であり、気圏が気相であるが、この両者の割合は一定ではない。固相は土壌の本体であるが、一般には土壌の微粒子-所謂粘土分の多少によって、埴土、埴壌土、壌土、砂壌土、砂土の5段階に別けられる。この土壌条件によって、土壌の三相状態も複雑性が増してくる。粘土分の多い土壌ほど、保水力は高く気圏は減少。即ち、水田のように湛水状態では気圏は無に等しい。
 水稲は水棲植物ではなく、好水性植物で地下根部の滋植のためには、空気が必要であり灌漑水中の溶存酸素を利用し不足する部分は茎葉から、根部の発育が悪く収量にも影響してくる。一方、畑作の甘藷など、耐乾性が強いものは埴壌土のような保水性の高い土壌が敵地とされる。
 これらの事を考えれば、地力なる言葉の難しいことがご理解いただけたと思う。更に、土壌そのものは無機質ではあるが、ここを住まいとする生物相のあることにより、地力は一層複雑性を増してくる。



7.地力と土中生物相…
 土中生物相の範囲には、かなり多くの生物が入ってくるが、ここでは私の脳裏に残っている。主として耕土中微生物と作物植生との関わりからのことを申し上げてみたい。
 学部時代のほとんどは農村での勤労動員で過ごし、教授がたも若い教員は出征、高齢の先生方も学生不在では講義もできず農学の講義らしい講義はほとんどできなかった。卒業後、復員学生に混じってそれこそ数回講義を聴いた記憶はアル。山県先生は土壌の教授で、この方の講義を盗み聴いた時、根粒菌のことが頭に残っている。根粒菌には窒素固定能力があり、マメ科植物と共棲し、空中窒素を固定植物に供給するから、マメ科植物には窒素肥料はやらなくてもできると言われた事が印象に残っている。
 しかし、実際に栽培してみて、種子に根粒菌を接種播種、窒素無施用区と5㎏/反 硫安を施用したものでは、初期生育が全く違い、収量にも大幅の差が生じた。地下根部の根粒菌数は、収穫時にはほとんど差がなく、多少の窒素は施用すべきだと判断したものである。その後、色々読むにつれ、土壌中最近相に着いて知る事が多くなった。
 砂土であっても1g中2~3百万、壌土、腐植土になると5百万~1千万、場合によって5~6千万も棲息すると言う。また、表土に多く、下層土に行くほど減少、1メートル以上の深処では無に近くなる。火山爆発後の火山灰地帯では、植生が見られるようになって初めて土中細菌層も見られるようになる事は、細菌群と土中有機物との関わりを示唆するものである。
 河川敷の農耕地、また、焼畑耕地には初めから豊な細菌相が発達するのは土中有機物が多いことを示している。


8.土壌の肥痩と細菌類…
 土壌の肥痩は、農業に有益に作用する細菌類の多少、また、細菌のための棲息環境の良否が関わることが多い。有益な細菌類とは、繊細素分解菌とか含窒素有機物を分解、その窒素をアンモニア態に変化させるアンモニア菌、これを更に硝酸態に変える硝酸化生菌、各種根粒菌、光合成菌などが揚げられる。最近では菌根菌なども知られている。
 逆に農業上、有害な最近も多い。硝酸還元菌、脱窒菌、硫酸還元菌、各種作物病原菌などがある。細菌類とひと口に申し上げたが、この中には所謂バクテリア類、糸状菌-放線菌類、カビ類と大別され土壌の酸性度によってその繁殖も変ってくる。
  播種に先立って、耕地に消石灰などが散布され、耕地土壌が微アルカリ、また中性に近い場合は細菌類がよく繁殖するが、作物の生育につれて土壌は酸度を増して糸状菌が更に収穫時にはカビ類の繁殖が多くなることが知られている。これは作物地下部-所謂根部からの各種産生物、肥料の硫酸根などによる土壌の酸度変化のためである。
 作物根部は生育につれて、根の実際の吸収根から根毛が脱落、新生していくがこれら脱落新鮮有機物は土中細菌類のよい栄養源であるから、根の周りには特に細菌類の棲息も多くなり、根圏微生物と呼ばれる。しかし、前にも述べた通り、耕地土壌の三相バランスが保たれるためには、土壌の構造も植生に適した状態に置かれねばならない。所謂土壌の団粒構造の多少が耕地の良否に関わってくる。 
 これに関与するのが堆厩肥であり、土中微生物相である。施用された堆厩肥などの有機質などは、土中微生物によって分解され、最終的には腐植となり、植生に適した状態となる。更に微生物による分解は続き、無機質~窒素・リン酸・加里塩・微量要素類~となり、作物に吸収・利用されることとなる。また、微生物の繁殖により、微生物自体も種々の物質~各種ビタミン・核酸・ホルモン・アミノ酸類~を産生、作物に利用される。
 また、腐植は土中粘土と同様の特性、即ち水分、作物養分の保持力があり、土壌の単粒子を結合、団粒を形成、土壌の三相構造を適正化し、根の発育滋植に寄与する。有機質の多用は、結果的にCN率を高めるから注意して、有機質の施用時には適量のN素の施用、酸度の適正化のために消石灰などの施用も忘れてはなるまい。土中腐植量も2~6%位が適当と言うが、微生物にとって有機物中の炭素はエネルギー源、たんぱくはN素源となることも知っておきたい。


9.結びの言葉…
 要は土壌を母体として農業が成立する限り、土壌が肥沃である事。その為には土質を基本として、土壌中の有機物や腐植、またこれを取り巻く無限に近い土壌微生物との相互関係、また、これに関与する土壌の三相…これには気象条件も関わるが、人為的条件の付与、即ち、栽培技術などが総合的に関与、更に土性に適した作物並びに品種の選択などまで考慮せねばならぬのが農業である。
 病害虫の防除のための農薬散布も、土壌中の微生物に及ぼす影響は大であるからこれに対処する手段として、微生物利用農法も考えられて当然である。
 この70年間あまりの間に、百種にも及ぶ微生物農法が考案提唱されてきたが、これを取り巻く要因、また、要因の変化は無限に近く、施用効果の解明は難しい。しかし、大地を母体とする農業の環境自然への役割を考えれば、当業者全員が協力して解明に進まねばならぬと考える次第である。




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